圧巻!黛敏郎のチェロのための『文楽』、新緑の信州原村で藤村さんのチェロ演奏会 [原村の小さなホール]
信州・原村の第二ペンションビレッジにリングリンク・ホールという小さなホールがあります。
ホールを主宰する小林節子さんが私の大学クラブの先輩ということで、イベントの裏方として年に数回原村に通うようになりました。
5月17日、ホール恒例の「藤村俊介チェロ演奏会」の日は、見事な五月晴れ。
今年は原村も春先から気温が高く、花の季節が例年より早目のようで、ホールのシンボルツリーも花絨毯になっていました。
藤村さんはお忙しいスケジュールの中、ピアノ伴奏の奥様、お子さんたちと一緒に神奈川県から駆け付けてくださいました。
長男の俊太郎君の演奏もあるというので、俊太郎君との再会を楽しみに私も東京から原村へ。
受付の準備をしながら開演前のリハーサルを満喫できるのが毎回至福の楽しみですが、俊太郎君もご両親の演奏をホールの2階からチェック。
東京からお越しの方など、50名を超えるお客様が開演前から続々とホールにお集まりくださり、受付は大忙しでしたが、以前も来てくれたことのある元同僚の後輩ちゃんが手伝ってくれたので助かりました。
演奏会は事前に発表されたプログラム通りに進行します。
♪♪ ボッケリーニ ソナタ ♪♪
♪♪ エルガー 愛の挨拶 ♪♪
♪♪ メンデルスゾーン 春の歌 ♪♪
藤村さんがこのホールで演奏会をなさるようになって10年。
リピーターのお客様にはすっかりお馴染みなった小品など、チェロの優しい響きがホールに響き渡ります。
次は本日の注目曲、日本人の作曲家・黛敏郎の名曲が披露されます。
藤村さんはこの曲を演奏するにあたって国立劇場で文楽を鑑賞し、人形たちの実際の動きなどを入念に研究されたそうです。
♪♪ 黛敏郎 無伴奏チェロのための「文楽」♪♪
まるで三味線のバチをを弾くように力強いタッチのピチカートが続きます。
目の前の舞台で文楽の人形たちが操られているシーンがまぶたに浮かんでくるような素晴らしい演奏でした。
(熊本県・清和文楽劇場)
チェロは“癒しのチェロ”といわれるように穏やかな演奏というイメージが強いのですが、この曲を聴いてチェロいう楽器の別の顔を見せていただきました。
さて、いよいよ藤村俊太郎君の登場です。
8歳の時、このホールの打ち上げ会場で初めて人前で演奏したのがとても楽しかったという俊君、今年はどんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。
♪♪ ゴルターマン コンチェルト第一楽章 ♪♪
演奏しているときはとても真剣な表情です。
初めて演奏した時の子ども用チェロから、つい最近フルサイズのチェロに変えたという俊君の演奏、とても上達していました。
会場のお客様から、温かい拍手をいただき、ご両親もほっとされた様子でした。
再び、藤村さんの演奏が続きます。
♪♪ ドビュッシー レントより遅く ♪♪
♪♪ フォーレ 夢のあとに ♪♪
♪♪ サン=サーンス 白鳥 ♪♪
♪♪ ポッパー ハンガリアン・ラプソディー ♪♪
藤村さんはこれまでにソロを含めて何枚もCDを出されていますが、昨秋、恩師・安田謙一郎先生とのデュオ演奏のCDを出されました。
会場でCDをお求めになれるようにお手伝いしましたが、ご高齢の安田先生とのレコーディング時のエピソードなど興味深いお話を聞かせていただきました。
このCDの収録曲にはなじみがない方も多いと思いますが、安田先生究極のこだわりの演奏は何度も聞くうちに知らず知らずにチェロの魅惑の世界にひきこまれるのではないでしょうか。
今回用意してくださったアンコール曲は3曲。
♪♪ G・カサド 親愛なる言葉(愛の言葉)♪♪
前述の恩師・安田先生は、スペイン留学時、名チェリストだったG.カサドの自宅に下宿していた方。
この曲はそのカサドが、巨匠・カザルスに捧げた曲。
♪♪ ポンセ エストレリータ(メキシカンセレナーデ)♪♪
♪♪ R.シュトラウス 「町人貴族」より アンダンテ ♪♪
もしかするとこのホールでの演奏会は今年が最後になるかもしれない事情が節子さんにあります。
節子さんから10年間の感謝をこめて奥様に贈られたのは原村特産品のセロリの花束。
毎年同行したお子さんたちの成長ぶりを語りながら、節子さんも感慨深げでした。
演奏会の終了後、お客様もまじえてのささやかなティーパーティがありましたが、毎年原村で素晴らしい演奏を聴かせて下さった藤村さんご一家には心から感謝申し上げます。
当日演奏された楽曲の一部は、既出のアルバムに収録されています。
<頑張れ!未来の巨匠・藤村俊太郎君>
演奏会終了後、演奏曲目の楽譜を見せる中1の俊太郎君にとって、
フルサイズのチェロを背負って歩くのはちょっぴり大変そう。
俊太郎君は、今、チェロを弾くのがとっても楽しいと語ってくれました。
もしもこれから、お父さんと同じ道を目指すとしたら幾多の厳しい試練が待っているかもしれないけれど、自分が楽しく演奏することで聴いた人が幸せな気分になれるなんてすばらしいことです。
俊君が初めて人前で演奏したのは、このホールでの演奏会の打ち上げ会場でした。
チェロを習い始めたばかりの俊君8歳の夏。
(2011.7.2)
そして翌年は、公開レッスンの形で父子共演。
新緑の原村で藤村俊介さんのチェロ演奏会、“優雅な白鳥”も水面下では? [原村の小さなホール]
信州・原村 八ヶ岳農場
リングリンク・ホールのシンボルツリー「ズミ」はまだ開花せず
ピンクの芝桜がお客様をお出迎え
今年も新緑の信州・原村のリングリンク・ホールに藤村俊介さんのチェロ演奏が心地よく響き渡りました。
小林節子さんが主宰するリングリンク・ホールの恒例イベントに私が裏方として参加するのも8回目になりますが、藤村さんはこの小さなホールで演奏するのを楽しみにしてくださり、神奈川県から日帰りで駆け付けてくださいました。
開演前、ピアノ伴奏の奥様と入念なリハーサル
演奏を独り占め状態の贅沢なひとときは裏方の特権
東京からお越しの方も含む30名あまりのお客様
2階席で聴く演奏は天上の妙音?
今年の演奏会も奥様の彩子さんと譜めくり役のお嬢さんが同行するファミリーコンサート。
数年前からチェロを始めた坊ちゃんとの合奏が聴けることを楽しみにしていたのですが、あいにく学校行事と重なり不参加となったのは残念でした。
プログラムは、昨年秋にリリースされたご自身4枚目のソロアルバムが中心とのことでしたが、演奏曲目の発表は当日のお楽しみ。
さて、自己紹介がわりの1曲目は今年もバッハの無伴奏です。
♪♪ J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲第三番より
プレリュード ♪♪
バッハの無伴奏チェロ組曲は2007年リリースの下記CDに収録されています。
- アーティスト: 藤村俊介,藤村俊介,カサド J.S.バッハ
- 出版社/メーカー: マイスター・ミュージック
- 発売日: 2007/04/24
- メディア: CD
2曲目からは奥様のピアノ伴奏で進行します。
♪♪ カッチーニのアヴェ・マリア ♪♪
♪♪ バッハ&グノー アヴェ・マリア ♪♪
どちらもよく知られた2曲のアヴェ・マリアですが、東日本大震災後、日本中の演奏会でリクエストが多かった楽曲は、バッハ&グノーのアヴェ・マリアときいたことがあります。
ラファエロ『大公の聖母』
カラヴァッジョ『蛇の聖母』
私はラファエロの名画『大公の聖母』のようなイメージのバッハ&グノーも好きですが、カラヴァッジョが描く聖母のように、聖母マリアの哀愁やわが子・キリストへの想いが感じられるようなカッチーニもよく聴きます。
♪♪ J.S.バッハ G線上のアリア ♪♪
♪♪ A.ルビンシテイン メロディー
& ロマンス ♪♪
アントン・ルビンシテインはロシアのピアニストで、サンクトペテルブルク音楽院の創設者。
チャイコフスキーは弟子にあたる。
♪♪ チャイコフスキー 感傷的なワルツ ♪♪
♪♪ サン=サーンス 白鳥 ♪♪
チェロの独奏曲としてあまりにも名高い「白鳥」の原曲の編成はチェロと2台のピアノ。
藤村さんのCDでは、ピアノのかわりに2台のハープが伴奏することでテクスチュアの充実感や広がり感を演出。
(参考:CDのライナーノーツ)
♪♪ マスカーニ 間奏曲
カヴァレリア・ルスティカーナより ♪♪
オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』は美しい旋律で有名だが犯罪がらみの暗殺など悲しい宿命の物語。
マフィア映画「ゴッド・ファーザーPart3」の主人公が見に行くこのオペラの間奏曲が、映画のラスト、娘が撃たれたあとに流れる。
(未踏の地、シチリアはスペインのこんな風景と似ている?)
♪♪ ポッパー ハンガリー狂詩曲 ♪♪
<アンコール曲>
♪♪ ポンセ エストレリータ ♪♪
藤村さんは演奏の合間に楽曲や作曲者に関するエピソードなどを披露されるので、私にとっては“クラシック音楽豆知識”が充実するのも楽しみのひとつです。
今回は、サン=サーンス「白鳥」について。
水辺にいる白鳥は優雅に泳いでいるようにみえるが、水面下では足をばたつかせて泳いでいるのかもしれない。
この曲も、演奏を聴く人にとっては優雅に思えるかもしれないが、音程をとる指のポジションや、ピアノ伴奏と間合いの取り方をぴったり合わせるのは結構難しい。
ということで、実際におふたりで演奏しながら具体的なポイントの説明がありました。
このあたりは、フィギュアスケートのペアの演技にも共通するかもしれないとも言われましたが、難しいことを何でもないように見せるのがプロの技なのでしょう。
また、今回のCD録音に際して、ハープの演奏者が一人だとピアノが両手を駆使するのにかなわないと思い贅沢をしてハープ奏者を二人頼んだそうです。
たしかに、私が持っているCDにもハープの伴奏のものがありますが、ハープは1台です。
2台のハープによる伴奏と、ハープが1台またはピアノ伴奏の場合、どのように聞こえ方が違うのか聴き比べてみようと思いますが、はたして私の耳の精度でも聴き分けられるものなのでしょうか。
藤村俊介さんのチェロ演奏会、情熱の国・スペインの民謡に想いを巡らす [原村の小さなホール]
信州・原村 まるやち湖畔の「ズミ(コナシ)」
原村ペンションビレッジ、緑溢れた美しいガーデン散策も楽しい
小林節子さんが主宰する信州原村・リングリンクホール恒例イベント「藤村俊介チェロ演奏会」に今年も行ってきました。
毎年、緑が美しい初夏の原村で藤村さんのチェロ演奏を聴くのが楽しみなのですが、藤村さん自身もご家族連れで来られて、アットホームな小さなホールのお客様の前で演奏するのを気に入ってくださり、今年が9回目となるようです。
今回も奥様の伴奏で、ファリャ「スペイン歌曲」、サンサーンス「白鳥」、ポッパー「ハンガリー狂詩曲」などの演奏曲が告知されていましたが、当日まで知らされないこの演奏会の“隠れテーマ”が私にとっては、毎年楽しみなのです。
一昨年はチェロを習い始めた長男俊くんの「公開レッスン」というハプニング企画がありましたが、演奏会前のリハからは俊くんの出番はない模様。さて、一体どんな趣向でしょう?
約40人のお客様をお迎えして演奏会が始まります。
♪♪ J.Sバッハ 無伴奏チェロ組曲第一番より
プレリュード ♪♪
チェロ音楽の金字塔ともいわれる組曲の前奏曲。
“一筆書き”のような起伏が印象的な旋律は、誰もが耳にしたことのある名曲です。
★バッハの無伴奏チェロ組曲は、藤村さんのこのCDにも収録されています★
- アーティスト: 藤村俊介,藤村俊介,カサド J.S.バッハ
- 出版社/メーカー: マイスター・ミュージック
- 発売日: 2007/04/24
- メディア: CD
続いてはポピュラーなチェロの名曲。会場は一気にリラックスムードが漂います。
♪♪ サンサーンス 白鳥 ♪♪
チェロの演奏会では、チェロのために作曲された楽曲以外に、歌曲をチェロ演奏用に編曲して演奏することも多いのですが、一昨年の演奏会で藤村さんは、フランスの作曲家G.フォーレの『夢のあとに』は、歌詞の意味を知る前と知った後では演奏に込める想いが異なってくる曲といわれました。
フォーレ自身が失恋でうちひしがれた心境の時に作曲したという哀愁に満ちた曲調の名曲ですが、歌詞は“(いなくなってしまった恋人との)ミステリアスな夜をもう一度!”などとポジティブにもとれる意外性と、藤村さんの解説でした。
今回は、バレエ音楽『三角帽子』の作曲者として有名な、M.deファリャ(1876-1946)の「スペイン歌曲」より6曲が演奏されました。
♪♪M.deファリャ スペイン民謡組曲♪♪
ファリャは、スペインの民族音楽、特にアンダルシアのフラメンコ(のカンテ:歌)に興味を寄せ、多くの作品にその影響が見られるといわれます。
今回選曲のスペイン民謡も日本人にとっては曲調から受けるイメージと歌詞にギャップを感じそうな曲が結構ありました。スペイン民謡は明るく弾ける歌や、恋の苦しみの歌など多彩ですが、激しい情熱がほとばしるような旋律がとても印象的でした。
スペインの情熱に触れた後は、
♪♪ プロコフィエフ チェロソナタ第二楽章 ♪♪
そして次なるテーマは、チェリスト自身が作曲した楽曲を演奏したいとのこと。
藤村さんの恩師である安田謙一郎先生が師事していた名チェリスト、ガスパール・カサド(カザルスの高弟)にまつわるいかにもスペイン人らしいエピソードがいくつか紹介されましたが、カサドは演奏会で練習曲を弾くことがよくあったそうです。
“練習コンチェルトも愛を込めて弾けば良い曲に聞こえる”ということで、藤村さん自身の音楽高校入試課題曲となったドイツ人による練習曲も紹介されました。
♪♪ D.ポッパー ハンガリー狂詩曲 ♪♪
ハンガリー=オーストリア二重帝国のチェロ奏者・作曲家、D.ポッパー(1843-1913)は、ユダヤ系チェコ人ですが、この曲もなかなか情熱的な楽曲でした。
最後は、昨年のリングリンクの演奏会でも演奏された
♪♪ G.カサド 親愛なる言葉(愛の言葉)♪♪
カサドが「親愛なるカザルス先生へ」捧げた曲は、カサド自身と原智恵子夫妻による情熱的な演奏をYou tubeで聴くことができますが、CD化はされていないようです。
今回の藤村夫妻の演奏もカサド夫妻に負けず最後までなかなか情熱的でしたが、さらに藤村家の長女がピアノ演奏するお母様の譜めくりとして本格デビュー(?)というファミリパワーも発揮されました。
私が初めて原村に来た頃、演奏中は会場の外で遊び回っていた幼ないお子さんたちが、今ではリハーサルから演奏するときの注意事項に耳を傾け、ご両親の演奏にじっと聴き入る姿に感動しました。
ところで、藤村さんによる「スペイン歌曲」の楽曲解説の後で演奏を聴いたら、大好きなスペインを旅したときの思い出が鮮明に浮かんできました。
☆ムーア人の服地☆
(南スペイン・ムルシア地方の民謡)
店頭のきれいな服の上に、奴はシミをつけてしまったから、たたき売るしかないな。。。。
☆Nana☆(子守歌)
おやすみ、おちびちゃん、おやすみ
おやすみ、私の可愛い子。。。。
☆アストリアの歌☆(北部ガリシア地方の民謡)
私を慰めてくれるかと 緑の松の木のところにやってきた。。。。
私の涙を見て、松の木も泣いた
緑の葉っぱの松の木も。。。。
☆カンション(歌曲)☆
(曲調は明るく楽しいが、男の未練の歌?)
お前の瞳は気まぐれだから、
私はそれを埋めてしまいたい。。。。
みんなが、お前は俺を愛していないという。
でも、かつては愛していた。。。。
☆ホタ☆(東スペイン・アラゴンの民謡)
人はみんな 俺たち、愛し合ってないだろと言う。
俺たちが話してるのを見たことがないから。。。。
さよなら、カワイコちゃん、明日またな
お前のお袋さんは許してないけど。。。。
☆Polo☆(アンダルシア民謡:激しく熱い恨み節?)
ああ!。。。。
持っているひとつの 痛み 私の胸の中の
ああ!。。。。
呪われろ愛よ、呪われちまえ。。。。
(ゴヤの版画)
★ファリャによるこれらのスペイン民謡は、藤村さんのこのCDにも収録されています★
また、ギターとのコラボ演奏によるスペイン民謡などを収録したこちらのCDも夏に向けてオススメです。
森ミドリさんと作家・太田治子さんの「文学コンサート」から『絵の中の人生』へ [原村の小さなホール]
信州・原村で小林節子さんが主宰する小さなホールで、天来の妙音といわれるチェレスタの演奏を毎年聴かせてくださる音楽家・森ミドリさんが、今年はとても素敵なコンサートを開いてくださいました。
節子さんとも20年来の知己である作家・太田治子さんをお迎えして、“チェレスタの演奏とお話、そして朗読”というかなり欲ばりな企画です。
当日は、あいにく朝から雨模様の天候でしたが、コンサートの時間帯は雨もあがり、緑に囲まれた小さなホールには遠来のお客様を含めて50名近い方がお集まりくださいました。
ミドリさんのチェレスタ演奏は、雨にちなんだ曲のメドレーから始まり、チェレスタという楽器にまつわるお話をはさみながら会場のお客様のリクエスト曲などを演奏。
チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」の「金平糖の精の踊り」は、チェレスタのソロ演奏パートがあることで知られていますが、元の曲名は「金平糖」ではなく「ドラジェ」だったことをミドリさんのお話で初めて知りました。
以前から、ロシアにも金平糖があるのか?と疑問に思っていたのですが、この曲が日本に紹介された当時、「ドラジェ」というアーモンドの砂糖菓子は日本では知られていなかったためのようです。
チェレスタ演奏の後、シニア層を中心としたお客様がお待ちかねだったゲストの作家・太田治子さんが登場。
治子さんは、太宰治と、“『斜陽』のモデル”といわれた太田静子さんの間に生まれたお嬢さんですが、母・静子さんが太宰に渡した『斜陽日記』をもとに、太宰治の『斜陽』という小説が世に出たということなどを語られました。
治子さんは太宰治生誕100年に、お二人の娘として、一度は向き合わなければいけなかったというテーマを渾身のノンフィクションとして一冊の本にまとめています。
その著書「明るい方へ」と、母上の著書「斜陽日記」を会場で販売していたので、私も求めさせていただきました。
父上の「斜陽」は手元にあるので、今回の2冊とともに読んで『太宰ワールド』を体感してみようと思います。
ミドリさんと治子さんのトークの後、太田治子さんは、ご自分の小説集「恋する手」の中から「僕は小鳥になる」という作品を味わい深く朗読されました。
会場の皆さんもミドリさんとご一緒にウェルナーの「野薔薇」を合唱して盛りだくさんのコンサートは終了しました。
ホールの裏方の一人として東京から駆けつけた私も、一期一会の贅沢なひとときを楽しみ、終演後のホールは出演者も交えた打ちあげの食事会場に早変わり。
裏方としてリングリンク・ホールに駆けつけた人たち心づくしの手料理がテーブル一杯に並びました。
私と一緒に東京から馳せ参じた潤子さんは、治子さんのために青森名物の「(うにの)いちご煮」で炊き込みご飯を作ってくれました。
小説やエッセイをその作家自身が朗読し、それにふさわしい音楽を合わせるという趣向の会は、平成22年2月22日の「ね!こんさあと」で体験済みですが、作家ご自身の著作の朗読というのは、プロのアナウンサーや俳優さんたちの朗読とはひと味違う何かがあるように思います。
さて、太田治子さんはNHKの「日曜美術館」の初代アシスタントをなさったように、美術にも非常に造形が深く、美術エッセイなどの著作も多数あります。
最近上梓された著作は、治子さんが敬愛してやまない明治の洋画家・浅井忠の評伝「夢さめみれば」。
日本の洋画界にあまり詳しくない私も、この本の表紙にもなっている「グレーの洗濯場」(1901年)は、先日ブリヂストン美術館で鑑賞しているのですが、浅井忠の名前を知らなかったため、この作品と画家の名前が一致していませんでした。
モネの「睡蓮」と並んで展示されていた川で洗濯する女性がいる風景画は、安政生まれの日本人が描いた作品とは想像もできない西洋画です。
- 作者: 太田治子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/01/20
- メディア: 単行本
翌朝、治子さんと少しお話できた折にご紹介いただいた美術エッセイ「絵の中の人生」に、“この絵のことをもっと知りたい”、“絵を描いた画家の人生にふれたい”と常々思っている私はすっかりはまってしまいました。
このブログで私が以前ご紹介したいくつかの作品に対する治子さん想いも「絵の中の人生」に書き綴られていました。
※絵のタイトルをクリックすると、該当するブログ記事をご覧いただけます。
絵はがき★ルノワール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」★
(1876年:ブリヂストン美術館蔵)
★「手紙を読む青衣の女」★
(1662-65年頃:アムステルダム国立美術館蔵)
絵はがき★「裸のマハ」★
(1797-1800年:プラド美術館蔵)
信州原村、高原の小さなホールで父と子のチェロ演奏を聴いた翌朝は、「金環日食」に大興奮 [原村の小さなホール]
今年も信州・原村リングリンク・ホールの初夏恒例イベント「藤村俊介チェロ演奏会」に裏方として参加してきました。
N響の次席チェリストで、4人のチェリストによる「ラ・クァルティーナ」の一員としても活躍される藤村さんは、私が原村に通うようになってから6年目となる今回も奥様のピアノ伴奏でハートフルな素晴らしい演奏会を開いてくださいました。
リハーサルから本番まで、特等席で藤村さんの柔らかなチェロの音色に包まれる至福のひとときを過ごすことができた私ですが、昨年7月、人前でチェロを初演奏した藤村家の長男俊くんが、今年はどんな演奏ぶりを見せてくれるかというのが個人的関心事でした。
昨年は、チェロを習い始めて3カ月という俊くんを題材にした公開講座という趣でしたが、リングリンクのお客様のあたたかい拍手で俄然チェロの練習に対するモチベーションがあがったとの情報もあり、期待も高まります。
小さなホールには40人以上のお客様が来場。
このホールでの演奏会が8回目くらいという藤村さんは、「今回は“高原らしさを感じられる曲”を演奏したいと選曲しました」とのコメント。
♪♪ヴィヴァルディ ソナタ第一番♪♪
ヴィヴァルディ唯一のチェロソナタ集は、初心者が発表会でよく弾く曲のようです。
♪♪バッハ 無伴奏チェロ組曲第三番(ブーレ)♪♪
チェリストのバイブルのような無伴奏組曲ですが、単純な練習曲として長らく忘れられていたのをパブロ・カザルスが再発掘したといわれています。
他の楽曲用に編曲されて演奏されることも多いそうですが、子どもの頃鈴木メソッドでヴァイオリンを習っていた私も自分で弾いたような記憶があります。
★バッハの無伴奏チェロ組曲は、藤村俊介さんのソロCDにも収録されています★
♪♪ウェーバー アダージョとロンド♪♪
チェロとピアノのためのこの曲は、帰宅後に調べたら、岩崎叔さんのチェロ演奏が携帯の着メロサイトにあったので思わずダウンロードしてしまいました。
さて、いよいよ未来のチェリスト・俊くんが登場。
今年は、父子の合奏を聴かせてくれるようです。
1年間、この日のために練習した曲は、
♪♪ウェルナー 練習曲♪♪
音楽の授業でも習う「野ばら」という歌曲でお馴染みのウェルナーですが、ピアノで言えばバイエルのようなチェロをはじめる人の教則本があるようです。
親切なお客様のおかげで、今年は、昨年よりも緊張せずに弾くことができたという俊くん。
来年も楽しみに待っていますよ!
父子共演の次は最もポピュラーなチェロの小品が続きます。
♪♪エルガー 愛の挨拶、サンサーンス 白鳥♪♪
続いて“藤村さん的発見”があり昨年のリングリンクでも演奏しているマイブーム?という曲を演奏。
♪♪フォーレ 夢のあとに♪♪
ガブリエル・フォーレの歌曲の中で一番有名な作品ですが、“曲調は哀愁に満ちているのに、ポジティブにとれる歌詞という意外性”が興味深い一曲です。
フォーレは、イタリア・トスカーナ地方に古くから伝わるイタリア詩のロマン・ビュシーヌによるフランス語訳に曲をつけていますが、ウエブサイトで見つけた日本語訳を読むと、“幸福な夢の中に出てきた「あなた」の幻影”の解釈が分かれそうに思います。
「あなた」とは、今はもういない恋人?それとも夢の中だけ私の恋人?
♪♪カサド 親愛なる言葉(愛の言葉)♪♪
チェリストのカサドが「親愛なるカザルス先生へ」捧げた曲の演奏には藤村家のお嬢さんも譜めくりとして登場。
アンコール曲としてリヒャルト・シュトラウスの組曲「町人貴族」からアンダンテが演奏された後は、会場のお客様もご一緒にささやかな打ちあげ会になりました。
昨年の演奏会で、会場でお客様にも紹介した藤村さんのチェロとギターが造り出すデリカシーとパッションの綾織りがアンダルシアの旅へ誘うCDは私のイチオシです。
ラテンとチェロの相性が良いことは、カサドもカザルスもスペイン出身ということでよくわかりますね。
(7:14)
そして、演奏会の翌朝は、この先リアルでは二度と見る機会がないと思われる「金環日食」を晴天に恵まれた八ヶ岳山麓のまるやち湖で観察。
刻々と太陽の様子が変わる世紀の天体ショーを自分の身体で体感し、天体望遠鏡を通した貴重な映像を見ることができ大興奮の一日となりました。
原村の小さなホール裏方日記:チェロ奏者藤村俊介さんの「私的公開チェロ講座」 [原村の小さなホール]
小林節子さんが主宰する信州・原村のリングリンク・ホール恒例の音楽イベント「藤村俊介チェロ演奏会」が先週末開かれました。
★原村のペンション・ビレッジにはオープンガーデンの
美しいお庭がたくさんあります★
★リハーサル風景★
例年より遅く7月の開催となりましたが、小さなホールの裏方生活5年目の私も“梅雨の最中の猛暑”の東京から“緑の原村”へ。今年は、打ちあげの料理はプロにお任せとのことで、リハーサルから本番までじっくりと演奏を聴かせていただくことができました。
今年も奥様がピアノ演奏をなさいましたが、8歳の長男、俊くんがなんと初演奏するというサプライズ企画があるとのこと。演奏会が始まる前からスタッフもいつもより若干ハイテンションです。
★N響次席チェリストの藤村俊介さんの演奏会は
リングリンク・ホールにとって初夏の恒例イベント★
今年は演奏の機会がとても多かったという「G線上のアリア」、「アヴェ・マリア」(バッハ)から演奏会は始まりました。サプライズ企画のことはお客様にお知らせしていないので、俊くんの楽器も俊くんも姿は見せません。
藤村さんお約束の“お楽しみトーク”は、 3曲目の「フォーレ:夢のあとに」演奏前の楽曲解説でした。この曲は、何度も演奏しているのに改めて(もともとは歌曲の)対訳を読み返してみたら『別れた恋人との素晴らしい思い出』はネガティブではなく、「ミステリアスな夜をもう一度!」などとかなりポジティブな心情の詩であることがわかり、曲のイメージが変わってしまったとのこと。
昨年もリングリンクで演奏されていた「夢のあとに」は、歌の意味を知ってからは2度目という演奏でしたが、次に演奏された「エルガー:愛のあいさつ」というヴァイオリン演奏でおなじみの曲もタイトルがなかなか意味深ですね。
ロマンチックな2曲の演奏が終わると、いよいよ本日のサプライズ企画の発表です。
「最近カルチャーセンターなどでもチェロの指導をするようになったのですが、本日は習い始めて3カ月の息子を題材にした公開講座と思ってください」
約50名のお客様のあたたかい拍手に迎えられて小さな主役が登場しました。
息子のデビューに心配そうな表情のお母様とお父様にはさまれた俊くんは思ったよりリラックスした表情でしたが、お父様との合奏で譜面を凝視する目は真剣そのものでした。
お父様も子ども時代に使っていたという1/2サイズのチェロを弾く俊くんですが、音を正確にとるポジショニングはともかく、ボーイングは習い始めて3カ月の子どもにはとても見えませんでした。いつもリングリンクの演奏会ではお父様の演奏中、少しもじっとしていないで遊びに夢中だった俊くんも両親が音楽家という環境。特に習わないでも日常生活の中で習得していたものがあるのでしょう。節子さんはこれを「まるで歌舞伎の世界のよう」と表現してしました。(この先に厳しい修行が待っている?)
さて、あたたかい拍手に送られて俊君のデビュー演奏が終わった後は、本日のメイン「シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ」です。19世紀前半に発明されたギターとチェロを混ぜ合わせたようなアルペジオーネという楽器のためにシューベルトが作曲したのですが、この楽器は今では忘れられた存在で、この作品に名前を残すのみとか。(後から考えると、藤村さんがこの楽曲の名前の説明をなさらなかったのはいつもの藤村さんらしくない感じです。息子のデビューでお忘れになったのでしょうか)
このあと「ドビュッシー:レントより遅く」と「サンサーンス:白鳥」が演奏され、約一時間でチェロ演奏会は終了。素晴らしい演奏の余韻にひたっているお客様と藤村さんのしばしの懇談のあとは「タイ料理の夕べ」という趣向の打ちあげパーティです。
★シェフ特製・桜エビのオイルフォンデュ★
★桜エビのかき揚げ★
★グリーンカレーは、ほんのり良い香りのタイ米で★
桜エビの本場静岡から駆けつけてくださったタイ料理のシェフがつくるおいしい料理を堪能していると、 「サプライズ企画第二部」。
もう少し演奏したい気分だった俊くんが再びお父様と一緒に登場してくれました。実は、当日の朝は大勢のお客様の前で演奏することに乗り気ではなかった俊くんが先ほどの演奏で自信をつけたのでしょうか。
★頑張れ!俊くん★
★デザートの茨城メロンは、節子さんの旧友から★
★お礼の挨拶も上手にできました★
この先、俊くんがチェリストをめざす道を本格的に歩むかどうかはわかりませんが、人前で初めて演奏したこの夜のことは彼をはじめご家族にとっても私たちにとっても忘れられない思い出になりそうです。
翌朝、ホールの玄関先のメッセージボードを見たら、俊くんが描いたお魚たちの絵が残されていました。
(江ノ島水族館の思い出かな?)
そういえば、2年前の演奏会の時も、彼は、合奏する両親の演奏風景を独自の構成でスケッチしていました。
私は来年もまた、俊くんの演奏が聴けることを願って猛暑の東京に戻りました。
この日の会場でも紹介された藤村俊介さんのCDアルバム
★チェロの王道ともいうべきバッハの組曲は本格派の味わい★
★チェロと相性の良いギターとの合奏で楽しむスペイン音楽紀行★
「八ヶ岳農場音楽祭」からもうすぐ1年、そしてリングリンク・ホールは10周年です [原村の小さなホール]
(八ヶ岳山麓、大自然のめぐみにあふれた「八ヶ岳農場」)
(2009.9.13「八ヶ岳農場音楽祭」)
八ヶ岳山麓の壮大な眺望と標高1300メートルの澄んだ空気に恵まれた八ヶ岳農場の広大な芝生広場で加藤登紀子さんをメインアーティストに迎えて開催した「八ヶ岳農場音楽祭」からもうすぐ1年。
小林節子さんを中心に地元の方と昔からの仲間たちが一緒に作り上げたイベントは、素晴らしいお天気に恵まれた八ヶ岳農場内の特設会場で、約2000人の幅広い年齢層がひとつになって大合唱の感動のフィナーレで幕を閉じましたが、信州・原村のリングリンク・ホールも今年10周年を迎えます。
先日、「八ヶ岳農場音楽祭」でネイティブ・アメリカン・フルートを演奏したマーク=アキクサと、ジャズピアノの小川理子さんのジョイントライブが開かれました。
(リングリンク・ホール)
(小川理子さんとマーク=アキクサ)
★3年ぶりに会って殆どリハーサルもなしで臨んだ共演ですが、“Amazing Grace”などお馴染みの曲を含めてお互いの魂が響きあうような素晴らしい即興演奏でした。
★アメリカの北アリゾナ大学留学中に出会ったネイティブ・アメリカン・フルートに魅せられて稀少楽器の専門奏者となったマークは、さまざまなアーティストとコラボレーションしながら演奏活動をしています。
マークが10年ほど前リングリンクに逗留していたご縁で、節子さんのお父様の100歳記念コンサートなどリングリンクでのイベント出演も多く、節子さんとは家族ぐるみのおつきあい。
この日マークは、ラブ・フルートやツインフルートなど形も音色も異なる4本のフルートでインディアン文化を題材にしたオリジナル曲を中心に魂のこもった演奏を聴かせてくれました。
★会社員を続けながらメジャーレーベルを含めてCDを13枚リリースし、ライブハウスなどでも演奏するジャズピアニストとして活躍している小川理子さんは、節子さんや私たちが卒業した大学の後輩。
ジャズのスタンダードナンバーやクラシックから民謡、オリジナルなど幅広いジャンルの楽曲でお客様を楽しませてくれました。
(2007.7.7節子さんのお父様の100歳記念コンサートで初共演)
(小川理子さんからのお祝いメッセージ)
(マークからのお祝いメッセージ)
節子さんのお父様の100歳記念コンサートに駆けつけてくれた時が初対面という二人がいきなりのコラボ演奏で私たちを楽しませてくれたのは2007年の7月でした。その後二人とも新しいCDアルバムをリリースするなど活躍の場が広がり忙しい中での共演です。今回、二人はそれぞれのソロと今回が2回目の即興コラボ演奏で10周年にふさわしい素敵なコンサートにしてくれました。
(キッチンで出番を待つバーベキューの食材)
(バーベキューのチーフシェフH氏夫妻に感謝!)
コンサートの後は、30人規模でのバーベキューパーティで10周年を祝いました。食材の準備から焼き方までをチーフとして仕切ってくださったご近所仲間のH氏ご夫妻、ご近所仲間の皆様たちのおかげで参加者一同、お腹も心も満たされた楽しいパーティでした。
★お客様を送り出したあとは内輪の2次会。
理子さんが弾き語りで聴かせてくれる力強い歌声はおじさまたちの心をわしづかみ?
(雨上がりの原村第2ペンションビレッジ)
(八ヶ岳農場直売所)
そして翌朝は、久しぶりに原村第2ペンションビレッジ内を散策し、御柱が曳かれた御柱街道を歩いて八ヶ岳農場まで出かけました。遠く沖縄近辺で発生した台風の影響か時々雨が降るあいにくの空模様でしたが、とても気分の良い散歩でした。
(農場で生産した野菜などが並ぶ直売所)
口蹄疫の予防のためしばらく接近禁止となっていた牛さんたちも元気に夏休みの子どもたちを迎えてくれているようで、野菜の直売所などは大盛況でレジに行列ができていました。
8月中は週末中心に節子さんが八ヶ岳農場の直売所横で「小さなマーケット」を開催しているのですが、今週は、ホールの助っ人でもある画家の絲さんが描いた「御柱祭」の作品が展示されているので覗いてみました。
(絲さんが描いた「御柱祭」の作品)
(「八ヶ岳農場音楽祭」の感動を忘れない!)
「御柱祭」を最初からずっと見守った絲さんならではの視点で祭が再現されている隣には「八ヶ岳農場音楽祭」の感動を思い起こさせる写真多数も展示されていました。
(リングリンク・ホールではお馴染みのロプチュ紅茶も並んでいました)
(農場産のトウモロコシを購入した小川理子さん(右端):節子さんは「八ヶ岳農場を愛する会」の会長です)
大勢の買い物客で賑わう直売所で、私のお気に入りの農場特製のヨーグルトとアンデス(赤いジャガイモ)を求めて、午後のあずさで帰京しました。
“あれから1年”最後の締めは、音楽祭当日スタッフに配られたお弁当です。
茅野駅の上りホーム売店では売り切れだった「御柱祭」記念弁当を新宿駅構内の駅弁屋さんで発見し、早速我が家の夕食用に購入しました。
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ササッパラ、さようなら・・・たくさんの思い出をありがとう [原村の小さなホール]
(2007.8原村合宿でのササッパラ)
昨年冬、学生時代からの仲間が二人相次いで急逝、友人たちとお互い健康には留意しようと誓い合ったばかりですが、今年も大学クラブ同期の友人、ササッパラの早すぎる訃報が届いてしまいました。
日本は長寿社会と言われているのに、私の周りの友人・知人たちはストレスの強い環境で働いていたのが災いしたのか、もともとせっかちな性格なのか“太く短く”の“人生60年タイプ”が目につきます。
(アナウンス訓練を受けた日吉キャンパス)
新潟県出身で、大学のクラブでアナウンス技術を習得したササッパラは、卒業後札幌のテレビ局のアナウンサーになり、テレビ局退職後も札幌在住でした。東京に住む私は残念ながらブラウン管の中のササッパラを見たり、実際に会う機会は少なかったのですが、彼の活躍ぶりは東京まで聞こえてきました。
ラジオの深夜番組のパーソナリティとして、テレビでは朝の全国ネットの情報番組で札幌地区のキャスターとして人気を博し、夕方のローカルワイド番組の初代プロデューサーとしても活躍。一時期は『視聴率男』の異名をとったそうです。
2006年役員で退職後は、独り者として自由気ままにオーストラリアのロングステイを楽しむなどリタイア生活を謳歌しているようでした。なかなか会えなかったササッパラと私が再会したのは2007年8月末、信州・原村でのクラブ仲間の合宿でした。
(2007.8原村合宿:節子さんの知人宅のツリーハウスで)
小林節子さんたちクラブの先輩と同期の仲間が2泊3日でとことん遊ぶ恒例の原村合宿ではいつも夜更けまで他愛もないおしゃべりをしたり、たいしたテーマでなくても“ケンケンガクガク”の議論を続けることを楽しみますが、2007年原村合宿のササッパラはいじられ役として大人気でした。
ササッパラがダジャレを言うたびに、皆から「レベルが低すぎる」とか「そのネタ古すぎて面白くない」などと言われたり、わざと誰も笑わなかったり・・・。
ササッパラは、“何故受けないのか?”首をひねりつつも、そんな仕打ちにめげることなく楽しそうにつまらないダジャレを連発していました。
(2007.8原村合宿)
スーパーで夕食の食材調達をしているとき、突然ササッパラが「ソース焼きそばが食べたい」と言いだしました。“野菜を入れると水っぽくなるので具なしの焼きそばがうまい”というのですが、私をはじめ女性軍は、“焼きそばは野菜や肉を入れた方が絶対おいしいし、作り方次第で水っぽくならない”と反論。「じゃあそれで作って欲しい」とお願いされたのですが、家庭用のフライパンで大人数の焼きそば作りは面倒なので、にべもなくリクエストを却下してしまいました。
ササッパラはしばらく不満そうに口を尖らせていましたが、女性軍の毅然とした態度に圧倒されたのか反撃をあきらめました。
(2007.8原村合宿:知人宅で弾けるササッパラの笑顔)
原村合宿では皆学生時代にタイムスリップした感覚なので、社会的地位に関係なく発言が却下されてしまうこともしばしばですが、長年役職者としてサラリーマン社会にどっぷり浸かっていたササッパラには“自分の意見があっさり却下される”ことが新鮮だったようです。
あんなにいじられまくっていたのに、合宿から帰宅した翌朝、“腹の底から、心の底から笑ったのは久しぶりでとても楽しかった”というメールがササッパラから届きました。
(楽しかった合宿の先に待っていたのは・・・)
しかし、2007年秋、思いもかけぬ闘病生活がササッパラを待ち受けていました。
翌年の合宿にササッパラの姿は見られず、年末に上京した彼を囲むささやかな忘年会で思いがけない“余命宣告”の告白を受けた私たちは大変びっくりしました。なんと原村合宿から帰ってすぐに病気が判明したとのこと。色々話をしてみると、“完治する望みをあきらめたわけではないけれど、残された時間を自分なりに自由に楽しみたい”という風に見受けられました。
昨年2月、旧友の通夜・葬儀のために札幌から駆けつけたササッパラは、入院加療中にしては元気そうに見えましたが、最後に別れの握手をした右手は人間の手とは思えないほどカサカサでした。
札幌に戻るため先に帰るというササッパラを見送る私たちに向かって大きく手を振りながら、ササッパラは得意の自虐ネタで「さらば、今生の別れ!」と叫びました。とっさに「しゃれにならないから変なこと言わないで!」などと言い返しましたが、皆かなり衝撃を受けてしまいました。
でも、あの浦和駅前での別れが本当にササッパラとの今生の別れになってしまいました。
東京出身の私は、大学入学で初めて東京に出てきたササッパラに対して“都会人として”教えてあげることも多く、なんとなくお姉さんのような態度でいつも接していました。こんなに早く別れがくるのだったら、原村合宿の時ササッパラに手作りのおいしい焼きそばを食べさせてあげればよかったなぁと“姉”としてはちょっぴり悔やまれます。
私たちにとって、原村合宿でのササッパラのつまらないダジャレと笑顔は、いつまでも忘れられない思い出です。
原村の小さなホール裏方日記・・・チェレスタ演奏と64本のキャンドル [原村の小さなホール]
小林節子さんが主宰するリングリンク・ホール恒例の年末イベントを手伝うため、3ヶ月ぶりに信州・原村へ行きました。
元来寒がりの私は、 “雪も積もらないほど冷える”という冬の原村をこれまでずっと避けていたのですが、今年は『64本のキャンドルとチェレスタの音色で祝う平和』と題し、森ミドリさんのチェレスタ演奏があるというので行かないわけにいきません。
天気情報では週末大寒波が襲来するというので、しっかりと防寒対策をして出かけた原村、空気は凛とした冷たいものでしたが、拍子抜けするほどの好天気で前夜の雪もうっすらと残っているだけでした。
リングリンク・ホールに到着すると早速午後4時開始のイベント準備が始まりました。
私の担当はイベント終了後恒例となっている『打ち上げ』の料理作りですが、参加者の人数規模もメンバー構成もよくわからないので、調理が簡単で融通のきく鍋料理を2品用意することにしました。
3時過ぎには、ご近所の方々が自慢の一品料理を携えて到着。人の出入りが慌ただしくなってきました。
イベントが終了したらすぐに鍋を仕上げられるように準備を整えた私もお客様と一緒に演奏を聴くためホールに急ぎました。
今回はイベント告知期間が短く予約の出足が鈍かったので心配していたのですが、お天気に恵まれたこともあり、ホールの客席は思いの外大勢のお客様で埋まっていました。
オープニングの1曲は、先日90歳で亡くなったハリウッド女優ジェニファー・ジョーンズを偲んで、映画「慕情」の主題曲「Love is a many splendored thing」。続いて、「ペチカ」など冬をテーマにした童謡のメドレーが演奏されます。
どんな曲が演奏されるかいつも楽しみなのですが、ミドリさんが演奏の合間に客席と交わされるトークも楽しいのです。
この日の客席はチェレスタが初めてという方も多かったので、まずはチェレスタという楽器についての説明、そしてこの日の演奏に使われた愛器の来歴にまつわるお話を・・・
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」、映画「ハリーポッターと賢者の石」(ヘドウィグのテーマ)など、一般的にチェレスタの音色が使われる曲が紹介されます。
そして、野球好きには懐かしい甲子園大会のテーマ曲「栄冠は君に輝く」(古関裕而作曲)こそ、このチェレスタがミドリさんの手元に来る前、年に一度の活躍舞台でした。(実は元の所有者は、NHK大阪放送局)
小さなホールならではのリクエストタイムでは、「Ave Maria」や「My Way」、「虹の彼方へ」などが演奏され、時折、暖炉の薪がはぜる音が聞こえる中でお客様とミドリさんの距離感が近くなっていきます。
この日のリクエストカードには、ミドリさんの幼なじみの男性と同一の名前がありました。原村移住により節子さんと知り合い、森ミドリさんの演奏会に来られた方がなんとそのご本人で、ウン十年ぶりのご対面というサプライズ企画になったのでした。
(★2階席で、”縄文の歌姫”美咲ちゃんを発見。
『八ヶ岳農場音楽祭』では、新曲「御柱」を披露)
私がこのホールで森ミドリさんのチェレスタを聴くのは3回目ですが、チェレスタの音色はこのホールとの相性が殊の外よいらしく、音が昇ってくる2階席で “天来の妙音”の心地よいシャワーを浴びるのはまさに至福のひとときでした。
今回のスペシャルプログラムは、向田邦子さんのエッセイ「白鳥」の朗読とサンサーンスの「白鳥」の“ひとりコラボ演奏(?)”でした。
白鳥が優雅に泳ぐ様子のイメージが強い名曲ですが、このエッセイで描写された白鳥の生態などを思い浮かべながら演奏を聴くと、思い出し笑いをしてしまいそう・・・
午後5時を過ぎ外がすっかり暗くなった頃、会場の奥にセットされた64本のキャンドルに灯をともすイベントが始まりました。
(★キャンドルイベントは、満州からの引き上げ体験者、平出昭恵さんの発案)
この1年あった様々な出来事を思い出し、来るべき新年が平和な良い年になるように祈念し、会場のお客様にキャンドル点火をして頂きました。
昨年7月、チェレスタ演奏をするミドリさんに同行してリングリンク・ホールを訪れた草柳文恵さんは、その2ヶ月後自ら命を絶ってしまいました。心身の不調に悩む年下の友人を失うという、ミドリさんにとって大変辛い出来事の報告もありました。
(★草柳文恵さんは、チェレスタ演奏会後の打ち上げでカメラを向けると、とても素敵な笑顔を見せてくれたのに・・・)
“ここに居るはずの人の不在”や“一緒に演奏を聴いて欲しかった人”への想いなどをそれぞれの胸に、暗くした会場に浮かび上がる赤いキャンドルの炎を見つめます。
(★昨年このイベントに参加した直後の1月に急逝してしまった原村仲間のMM君の遺した薪小屋。
この日の午後、MT君が記念のプレートを取り付けて、ささやかに献杯の儀式を・・・)
キャンドルがすべて点火した会場で、ドビュシーの「月の光に」が演奏され、お客様と一緒にクリスマスの歌などを歌って散会となりました。
(★東京のOLに”美肌鍋”として人気上昇中の「トマト鍋」。
原村仲間やおじさまたちの知名度はまだまだ)
(★ミドリさんの手料理「牡蠣の炒め物」、大変おいしく戴きました。
東北各地の鍋をアレンジした「オリジナルせんべい汁」は、
コンロで熱々にした比内地鶏スープのおかげでおじさまたちにも喜んでいただけました。)
イベント終了後、関係者と親しい方々をお招きしてのパーティには、皆さんの心づくしの料理と一緒に、演奏後の森ミドリさんが、持参したぷりぷりの大粒牡蠣を手際よく調理された一品も並びました。
(★子供たちと一緒のイベントを終えて駆けつけた美咲ちゃん。
サンタ姿でパーティを盛り上げてくれました)
『鹿肉の煮込み』や『カボチャの寒天寄せ』などの郷土料理、『鶏肉とゆで卵の親子煮』、お汁粉、ドイツのクリスマス菓子・シトーレン、自家製(?)干し柿などもあり、心も体もあたたまるパーティ料理を戴きながら初めてお会いする方や地元との方々との交流もできました。
お客様がお帰りになった後は、ごく内輪だけの二次会。ワイングラスを傾けながら、他愛もないおしゃべりやら音楽談義。
すると、ミドリさんが再びチェレスタ演奏をしてくれました。ホールに居るわずか数人だけが素晴らしい音色に包まれる贅沢な空間・・・
(★“歌うことがとにかく楽しい”という二十歳の美咲ちゃん)
シンガーソングライターの美咲ちゃんは、ギターの弾き語りを聴かせてくれました。
細い体からほとばしる独特の歌声は奄美大島の民謡歌手の歌い方にも通じるものがあるような気がします。
7年に1度の「御柱祭」に向けて特訓中の「木遣り」も披露してくれましたが、”御柱イヤー”の来年はいっそうの飛躍が期待される注目のアーティストです。
夜が更けても、楽しい宴はまだまだ続きますが、私はお宿をお願いしたペンションに戻らなければなりません。後ろ髪を引かれる思いで、一足先に帰りましたが、「音楽の楽しさ」を堪能した一夜でした。
『決戦の日』・・・エコライブ「八ヶ岳農場音楽祭」、終わりよければすべて良し? [原村の小さなホール]
(八ヶ岳農場)
かねてより事務局サポートメンバーとして、開催準備作業をしていた「八ヶ岳農場音楽祭」が無事終了しました。
信州・原村在住で大学のクラブ先輩である小林節子さんからこの企画を聞かされたときは、本当に実施できるかどうか半信半疑だったことが実現しました。ここに至るまで試行錯誤・紆余曲折も色々あったと思いますが、無謀な?夢を実現させてしまった節子さんのパワーに改めて敬意を表します。
コンサートの翌日、節子さん宅で残務整理をしていた私たちは、地元紙だけでなく、NHKの「おはよう日本」でも映像が全国に紹介されたと友人たちから知らされ皆で喜び合いました。
さらに、エコライブのメインアーティスト、加藤登紀子さんの公式ブログには、早くもコンサート翌日にご自身のメッセージがアップされていました。
「八ヶ岳農場音楽祭 すばらしかった!!」という記事を読んだ事務局スタッフ一同は大感激です。
また、このイベントを応援してくれたWEBサイト「元気埼玉」にも、参加報告がアップされました。
アーティストも、お客様もスタッフもみんなが一つになって盛り上がれたことは本当によかった!
9月13日(日)の朝起きると、天気予報通りの素晴らしい晴天。
いよいよ『決戦の日』です。スタッフは、朝8時に農場集合なので、前日深夜まで準備したたくさんの荷物をクルマに積み込み私たちは農場のコンサート会場に向かいました。
(会場入り口の白樺とコスモス)
(ステージ準備中のエコモービル:
すべて太陽光発電のクリーンエネルギー)
ボランティアで集まったスタッフは、地元の有志と節子さんの仲間などの混成なので、全員が揃うのは本番当日が初めて。前日の大雨でぬかるんだ道や芝生のグランドが気温上昇とともに回復することを願いながら、スタッフはそれぞれの持ち場で任務につきました。私は地元の方々と一緒に農場直売所前の「総合受付」テントへ。
好天に恵まれた日曜日は直売所のお客さんも多いので、買い物客に「当日券」を積極的に売り込みたい!と思い、他のスタッフの皆さんにも協力をお願いし、1枚でも多く売るために、大きなテントの日陰から出て通路に近いテーブル席で頑張ることにしました。
各地からバスツアーで参加のお客様も到着し、開場予定時刻前から長い行列ができました。
私がお誘いした方々も参加したバスは、事故渋滞で予定より遅くなりましたが無事到着。応対に忙しい中でも、友人・知人と短い挨拶をかわしたり、激励されたりのうれしいひとときも・・・
午後1時の開演予定時刻を過ぎましたが、森の向こうのコンサート会場から“縄文の歌姫”美咲ちゃんの歌や、マークのネイティブアメリカン・フルートの音声は全く聞こえてきません。
(八ヶ岳農場は、御柱街道に面しています。
会場内では、来年の御柱祭のPRも)
スタッフの方々に助けられながらたくさんのお客様を会場に送り出し、直売所周辺に居る人もまばらで受付対応も暇になった1時半頃、手すきのスタッフはコンサート会場へ移動し、私は昼食タイムです。
強い日差しと紫外線を浴びながら入場券販売に奮闘したおかげで、100枚以上の当日券を売ることができ私の個人的目標は達成です。
★委員長の節子さんが心をこめて選んだスタッフ弁当は、
本日新発売の「平成22年 御柱祭弁当」:
会場でも販売したこのお弁当は、スタッフの皆さんにもバスツアーのお客様にも好評でした★
2時半頃、「総合受付」をクローズして私も会場に向かいました。
広い芝生のグランドは、お好きな場所でレジャーシートやイスに座りコンサートを楽しむ幅広い年齢のお客様で埋められています。太陽光発電のクリーンエネルギー利用の巨大なステージカーの向こうは緑の森。素晴らしいお天気に恵まれたことを神様に感謝です。
登紀子さんのコンサートも佳境にはいり、登紀子さんの歌にあわせて体をゆすったり、手拍子したり、通常の野外ライブよりも平均年齢がかなり高いお客様とは思えない反応です。そして、この日の登紀子さんは歌の選曲も素晴らしかったけれど、トークにとても力強いメッセージが感じられました。ステージから下りて、お客様たちと会話しながら歌ったり、地元の小学生と一緒に合唱したり、最後はステージの下で登紀子さんを中心にスタッフもお客様も一緒に手をつないで踊りながら歌ったり・・・
(委員長の小林節子さんから登紀子さんに花束)
予定時刻を若干オーバーしたコンサートの終演後、ステージ下で関係者とスタッフでささやかな打ち上げをやりました。
(「真澄」の四斗樽で鏡割り)
(「真澄」を寄贈してくださった宮坂酒造の奥様と)
(”縄文の歌姫”美咲ちゃん、登紀子さんの舞台監督も笑顔)
(控え室の登紀子さんを陰で支えた若い”助っ人君”たち)
(キャンピングカーで駆けつけた”助っ人君”たちは、コンサートの前夜、高価な機材を積み込んだステージカーの不寝番も担当。このあたりに熊がでたとの目撃情報もありました)
(登紀子さんの控え室に準備した”季節の果物かご”は、私と知人の手作りアレンジ)
登紀子さんもこのエコライブでは、自らも楽しみながら歌ったり語ったりしてくださったようです。
終わりよければすべて良し?
(東京の家族に持ち帰ったおみやげ:
旧友手作りのブルーベリージャムと、若いスタッフ手作りのジェノベーゼソース)
(そして、「真澄」のかわいいカップ酒:
真澄富士見蔵は日本一標高の高い酒蔵とか)
(Special Thanks to Yukiusagiさん)