原村の小さなホール裏方日記:チェロ奏者藤村俊介さんの「私的公開チェロ講座」 [原村の小さなホール]
小林節子さんが主宰する信州・原村のリングリンク・ホール恒例の音楽イベント「藤村俊介チェロ演奏会」が先週末開かれました。
★原村のペンション・ビレッジにはオープンガーデンの
美しいお庭がたくさんあります★
★リハーサル風景★
例年より遅く7月の開催となりましたが、小さなホールの裏方生活5年目の私も“梅雨の最中の猛暑”の東京から“緑の原村”へ。今年は、打ちあげの料理はプロにお任せとのことで、リハーサルから本番までじっくりと演奏を聴かせていただくことができました。
今年も奥様がピアノ演奏をなさいましたが、8歳の長男、俊くんがなんと初演奏するというサプライズ企画があるとのこと。演奏会が始まる前からスタッフもいつもより若干ハイテンションです。
★N響次席チェリストの藤村俊介さんの演奏会は
リングリンク・ホールにとって初夏の恒例イベント★
今年は演奏の機会がとても多かったという「G線上のアリア」、「アヴェ・マリア」(バッハ)から演奏会は始まりました。サプライズ企画のことはお客様にお知らせしていないので、俊くんの楽器も俊くんも姿は見せません。
藤村さんお約束の“お楽しみトーク”は、 3曲目の「フォーレ:夢のあとに」演奏前の楽曲解説でした。この曲は、何度も演奏しているのに改めて(もともとは歌曲の)対訳を読み返してみたら『別れた恋人との素晴らしい思い出』はネガティブではなく、「ミステリアスな夜をもう一度!」などとかなりポジティブな心情の詩であることがわかり、曲のイメージが変わってしまったとのこと。
昨年もリングリンクで演奏されていた「夢のあとに」は、歌の意味を知ってからは2度目という演奏でしたが、次に演奏された「エルガー:愛のあいさつ」というヴァイオリン演奏でおなじみの曲もタイトルがなかなか意味深ですね。
ロマンチックな2曲の演奏が終わると、いよいよ本日のサプライズ企画の発表です。
「最近カルチャーセンターなどでもチェロの指導をするようになったのですが、本日は習い始めて3カ月の息子を題材にした公開講座と思ってください」
約50名のお客様のあたたかい拍手に迎えられて小さな主役が登場しました。
息子のデビューに心配そうな表情のお母様とお父様にはさまれた俊くんは思ったよりリラックスした表情でしたが、お父様との合奏で譜面を凝視する目は真剣そのものでした。
お父様も子ども時代に使っていたという1/2サイズのチェロを弾く俊くんですが、音を正確にとるポジショニングはともかく、ボーイングは習い始めて3カ月の子どもにはとても見えませんでした。いつもリングリンクの演奏会ではお父様の演奏中、少しもじっとしていないで遊びに夢中だった俊くんも両親が音楽家という環境。特に習わないでも日常生活の中で習得していたものがあるのでしょう。節子さんはこれを「まるで歌舞伎の世界のよう」と表現してしました。(この先に厳しい修行が待っている?)
さて、あたたかい拍手に送られて俊君のデビュー演奏が終わった後は、本日のメイン「シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ」です。19世紀前半に発明されたギターとチェロを混ぜ合わせたようなアルペジオーネという楽器のためにシューベルトが作曲したのですが、この楽器は今では忘れられた存在で、この作品に名前を残すのみとか。(後から考えると、藤村さんがこの楽曲の名前の説明をなさらなかったのはいつもの藤村さんらしくない感じです。息子のデビューでお忘れになったのでしょうか)
このあと「ドビュッシー:レントより遅く」と「サンサーンス:白鳥」が演奏され、約一時間でチェロ演奏会は終了。素晴らしい演奏の余韻にひたっているお客様と藤村さんのしばしの懇談のあとは「タイ料理の夕べ」という趣向の打ちあげパーティです。
★シェフ特製・桜エビのオイルフォンデュ★
★桜エビのかき揚げ★
★グリーンカレーは、ほんのり良い香りのタイ米で★
桜エビの本場静岡から駆けつけてくださったタイ料理のシェフがつくるおいしい料理を堪能していると、 「サプライズ企画第二部」。
もう少し演奏したい気分だった俊くんが再びお父様と一緒に登場してくれました。実は、当日の朝は大勢のお客様の前で演奏することに乗り気ではなかった俊くんが先ほどの演奏で自信をつけたのでしょうか。
★頑張れ!俊くん★
★デザートの茨城メロンは、節子さんの旧友から★
★お礼の挨拶も上手にできました★
この先、俊くんがチェリストをめざす道を本格的に歩むかどうかはわかりませんが、人前で初めて演奏したこの夜のことは彼をはじめご家族にとっても私たちにとっても忘れられない思い出になりそうです。
翌朝、ホールの玄関先のメッセージボードを見たら、俊くんが描いたお魚たちの絵が残されていました。
(江ノ島水族館の思い出かな?)

そういえば、2年前の演奏会の時も、彼は、合奏する両親の演奏風景を独自の構成でスケッチしていました。
私は来年もまた、俊くんの演奏が聴けることを願って猛暑の東京に戻りました。
この日の会場でも紹介された藤村俊介さんのCDアルバム
★チェロの王道ともいうべきバッハの組曲は本格派の味わい★
★チェロと相性の良いギターとの合奏で楽しむスペイン音楽紀行★
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