圧巻!黛敏郎のチェロのための『文楽』、新緑の信州原村で藤村さんのチェロ演奏会 [原村の小さなホール]
信州・原村の第二ペンションビレッジにリングリンク・ホールという小さなホールがあります。
ホールを主宰する小林節子さんが私の大学クラブの先輩ということで、イベントの裏方として年に数回原村に通うようになりました。
5月17日、ホール恒例の「藤村俊介チェロ演奏会」の日は、見事な五月晴れ。
今年は原村も春先から気温が高く、花の季節が例年より早目のようで、ホールのシンボルツリーも花絨毯になっていました。
藤村さんはお忙しいスケジュールの中、ピアノ伴奏の奥様、お子さんたちと一緒に神奈川県から駆け付けてくださいました。
長男の俊太郎君の演奏もあるというので、俊太郎君との再会を楽しみに私も東京から原村へ。
受付の準備をしながら開演前のリハーサルを満喫できるのが毎回至福の楽しみですが、俊太郎君もご両親の演奏をホールの2階からチェック。
東京からお越しの方など、50名を超えるお客様が開演前から続々とホールにお集まりくださり、受付は大忙しでしたが、以前も来てくれたことのある元同僚の後輩ちゃんが手伝ってくれたので助かりました。
演奏会は事前に発表されたプログラム通りに進行します。
♪♪ ボッケリーニ ソナタ ♪♪
♪♪ エルガー 愛の挨拶 ♪♪
♪♪ メンデルスゾーン 春の歌 ♪♪
藤村さんがこのホールで演奏会をなさるようになって10年。
リピーターのお客様にはすっかりお馴染みなった小品など、チェロの優しい響きがホールに響き渡ります。
次は本日の注目曲、日本人の作曲家・黛敏郎の名曲が披露されます。
藤村さんはこの曲を演奏するにあたって国立劇場で文楽を鑑賞し、人形たちの実際の動きなどを入念に研究されたそうです。
♪♪ 黛敏郎 無伴奏チェロのための「文楽」♪♪
まるで三味線のバチをを弾くように力強いタッチのピチカートが続きます。
目の前の舞台で文楽の人形たちが操られているシーンがまぶたに浮かんでくるような素晴らしい演奏でした。
(熊本県・清和文楽劇場)
チェロは“癒しのチェロ”といわれるように穏やかな演奏というイメージが強いのですが、この曲を聴いてチェロいう楽器の別の顔を見せていただきました。
さて、いよいよ藤村俊太郎君の登場です。
8歳の時、このホールの打ち上げ会場で初めて人前で演奏したのがとても楽しかったという俊君、今年はどんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。
♪♪ ゴルターマン コンチェルト第一楽章 ♪♪
演奏しているときはとても真剣な表情です。
初めて演奏した時の子ども用チェロから、つい最近フルサイズのチェロに変えたという俊君の演奏、とても上達していました。
会場のお客様から、温かい拍手をいただき、ご両親もほっとされた様子でした。
再び、藤村さんの演奏が続きます。
♪♪ ドビュッシー レントより遅く ♪♪
♪♪ フォーレ 夢のあとに ♪♪
♪♪ サン=サーンス 白鳥 ♪♪
♪♪ ポッパー ハンガリアン・ラプソディー ♪♪
藤村さんはこれまでにソロを含めて何枚もCDを出されていますが、昨秋、恩師・安田謙一郎先生とのデュオ演奏のCDを出されました。
会場でCDをお求めになれるようにお手伝いしましたが、ご高齢の安田先生とのレコーディング時のエピソードなど興味深いお話を聞かせていただきました。
このCDの収録曲にはなじみがない方も多いと思いますが、安田先生究極のこだわりの演奏は何度も聞くうちに知らず知らずにチェロの魅惑の世界にひきこまれるのではないでしょうか。
今回用意してくださったアンコール曲は3曲。
♪♪ G・カサド 親愛なる言葉(愛の言葉)♪♪
前述の恩師・安田先生は、スペイン留学時、名チェリストだったG.カサドの自宅に下宿していた方。
この曲はそのカサドが、巨匠・カザルスに捧げた曲。
♪♪ ポンセ エストレリータ(メキシカンセレナーデ)♪♪
♪♪ R.シュトラウス 「町人貴族」より アンダンテ ♪♪
もしかするとこのホールでの演奏会は今年が最後になるかもしれない事情が節子さんにあります。
節子さんから10年間の感謝をこめて奥様に贈られたのは原村特産品のセロリの花束。
毎年同行したお子さんたちの成長ぶりを語りながら、節子さんも感慨深げでした。
演奏会の終了後、お客様もまじえてのささやかなティーパーティがありましたが、毎年原村で素晴らしい演奏を聴かせて下さった藤村さんご一家には心から感謝申し上げます。
当日演奏された楽曲の一部は、既出のアルバムに収録されています。
<頑張れ!未来の巨匠・藤村俊太郎君>
演奏会終了後、演奏曲目の楽譜を見せる中1の俊太郎君にとって、
フルサイズのチェロを背負って歩くのはちょっぴり大変そう。
俊太郎君は、今、チェロを弾くのがとっても楽しいと語ってくれました。
もしもこれから、お父さんと同じ道を目指すとしたら幾多の厳しい試練が待っているかもしれないけれど、自分が楽しく演奏することで聴いた人が幸せな気分になれるなんてすばらしいことです。
俊君が初めて人前で演奏したのは、このホールでの演奏会の打ち上げ会場でした。
チェロを習い始めたばかりの俊君8歳の夏。
(2011.7.2)
そして翌年は、公開レッスンの形で父子共演。
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