フェルメール鑑賞と一緒に17世紀オランダ風俗画のユーモラスな世界を楽しもう [私的美術紀行]
猛暑のさなかですが、東京上野では以前このブログでもご紹介したように、フェルメールの傑作絵画が隣り合うふたつの美術館で競演という豪華な状況です。
◆「真珠の耳飾りの少女」来日
オランダ絵画の至宝 マウリッツハイス美術館展
2012.6.30~9.17(東京都美術館)
絵はがき★フェルメール「真珠の耳飾りの少女」
(1665-66年頃:マウリッツハイス美術館蔵)
★フェルメール「ディアナとニンフたち」
(1655-56年頃:マウリッツハイス美術館蔵)
Photo by 展覧会公式HP
◆初来日、フェルメールの「真珠の首飾りの少女」
in ベルリン国立美術館展
~学べるヨーロッパ美術の400年~
2012.6.13-9.17(国立西洋美術館)
絵はがき★フェルメール「真珠の首飾りの少女」
(1662-65年頃:ベルリン国立絵画館蔵)
私は、数年前ベルリンまで会いに行った「真珠の首飾りの少女」とは既に先月再会ずみなのですが、個人的には未見の「真珠の耳飾りの少女」とは来週対面する予定です。
オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館は、西洋美術史に大きな影響を及ぼした17世紀オランダ・フランドル絵画の世界的コレクションで知られていますが、今回は同館が改修工事で休館しているために世界的なフェルメール・ブームのシンボル的存在である「真珠の耳飾りの少女」の再来日が実現しました。
17世紀初頭に独立をはたした新興国オランダでは、市民社会の成立と繁栄を背景に、ごくありふれた市民生活を描いた風俗画や静物画にも脚光があたるようになり、オランダ絵画の黄金時代が到来しました。
今回の展覧会には、フェルメール(1632-75年)にも通じる深い精神性が感じられる“光と影の画家”として日本人にも人気の高い巨匠・レンブラント(1606-69年)や17世紀バロック絵画の巨匠・ルーベンス(1577-1640年)の作品なども来日していますが、ここでは市民の生活風俗をいきいきと描き出したオランダの風俗画を少し紹介したいと思います。
★ピーテル・デ・ホーホ「デルフトの中庭」
(1658-60年頃:マウリッツハイス美術館蔵)
Photo by 展覧会公式HP
17世紀オランダを代表する風俗画家で、デルフトやアムステルダムで活躍したピーテル・デ・ホーホ(1629-84年)は、中流階級の家庭生活における慎ましい美徳や、市民階級の女性たちの心地良い空間を見せてくれる作品で知られています。
先に開催された「フェルメールからのラブレター展」にもデ・ホーホの特徴がよくわかる下記の作品が出品されていました。
絵はがき
(左)★ピーテル・デ・ホーホ「中庭にいる女と子供」
(1658-60年頃:ワシントン・ナショナルギャラリー蔵)
(右)★ピーテル・デ・ホーホ「室内(食糧貯蔵庫)の女と子供」
(1658年:アムステルダム国立美術館蔵)
右の作品で、召使いが子どもに与えている飲み物は、子ども用のビール。
当時のアムステルダムは水事情が悪かったので、栄養食にもなる“子ども用ビール”があった。
また、ワンピース着用の子供は、服の肩章から少年とわかる。
民衆の生活をユーモラスに描く絵画で知られるヤン・ステーン(1626-79年)は、オランダのことわざや習わしをモチーフにした興味深い作品が多いので私はいつも楽しみにしています。
★ヤン・ステーン「親に倣って子も歌う」
(1668-70年頃:マウリッツハイス美術館蔵)
Photo by 小学館「西洋美術館」
ずぼらな親が子どもたちの悪い手本になってしまうというテーマは、よく取り上げられますが、この絵では飲酒と喫煙に対する警告として、作者のステーン自身を、笑いながら子どもにパイプを吸わせる父親として描いている。
★ヤン・ステーン「医者の往診」
(1661-62年頃:ロンドン、ウエリントン美術館蔵)
Photo by 小学館「西洋美術館」
額に手を当てている若い女性が患っているのは、弓矢を手にした「当世風の装いのクピド」が示すように『恋患い』。
★ヤン・ステーン「混乱した連中」
(1663年頃:ウイーン美術史美術館蔵)
Photo by「西洋絵画史WHO’S WHO」
散らかった部屋で自堕落な生活をするなという戒めでしょうか。
”中流階級の家では、きれいに掃除・整頓されたなかで慎み深い生活をしなさい”とは、耳が痛い・・・・
フェルメールは、ありふれた日常生活をテーマにした風俗画でありながら、静謐な世界観が感じられる作品が多いのですが、初期の頃は、宗教画も何枚か描いています。その後、市場のニーズにあわせて風俗画家に転身したようです。
絵はがき★フェルメール「紳士とワインを飲む女」
(1658-59年頃:ベルリン国立絵画館蔵)
ベルリン国立絵画館にはフェルメールの作品が2枚ありますが、フェルメールの最高傑作の1枚といわれ、今回来日している「真珠の首飾りの少女」と共に展示されている「紳士とワインを飲む女」は、女性の表情が見えないためか人気はあまり高くないようですが、完成度の高い作品といわれています。
同じドイツのドレスデン国立絵画館には、ザクセン公の巨匠コレクションとして2枚のフェルメールがありますが、まったく雰囲気の異なる2作品が並べられていたのがちょっとした衝撃でした。
★フェルメール「取り持ち女」
(1656年:ドレスデン国立絵画館蔵)
フェルメール初期のこの作品を初めて見たときは、なんだか趣味がよくない印象を受けたが、図版を何度も見返す内に“「風俗画家としてやっていこう」というフェルメールの決意が伝わる作品”として受け入れられるようになってきた。
★フェルメール「窓辺で手紙を読む女」
(1658-59年頃:ドレスデン国立絵画館蔵)
購入時はレンブラントの作品とされていたが、フェルメールが新しい風俗画にむかって一歩踏み出した作品といわれている。
フェルメールと同時代のオランダで活躍した上記二人の画家の作品は、日本で開催されるフェルメール関連の展覧会でもよく展示されるのでご覧になった方も多いかと思います。三者の作品を見比べると、フェルメールの作品が格別の魅力を備えていることがよくわかるのではないでしょうか。
ところで、今回ご紹介した作品を含めてフェルメールの作品には、同じ家具や道具類が複数枚の絵に登場したり、異なったモデルがファーのついた黄色いガウンを着用しています。
これは画家の省エネ?と自分で勝手に解釈していたら、それらは画家独自の世界を創造するためのアトリエの小道具だったようです。
★フェルメール「眠る女」メトロポリタン美術館
(1656-57年頃:メトロポリタン美術館蔵)
Photo by 「芸術新潮」
同じ小道具つながりで最後にご紹介するフェルメールは、今年の秋に東京都美術館で大規模な展覧会が開催されるニューヨーク・メトロポリタン美術館の所蔵品です。
メトロポリタン美術館にはいずれもコレクターから寄贈された5枚のフェルメール作品がありますが、「眠る女」は“貸し出さないという条件付きの遺贈”なので、ニューヨークに行かなければ見ることが出来ません。
もしニューヨークに行かれる方は、同じマンハッタン地区にあり、3枚のフェルメール作品も門外不出の『フリックコレクション』ご訪問をお忘れなく。