「カラヴァッジョ展」、闇と光を操る天才画家の傑作10点に逢える! [私的美術紀行]
西洋美術ファンにとっては見逃せない展覧会が目白押しのスペシャルイヤーです。
現在、日本初の本格的回顧展となる「ボッティチェリ展」(~4月3日まで東京都美術館)、特別展「レオナルド・ダヴィンチ 天才の挑戦」(4月10日まで東京都江戸東京博物館)が開催中です。
来月は私の大好きな画家、バロック絵画の始祖であり篤い信仰心から生まれた宗教画を制作しながらも殺人者という破天荒な天才画家「カラヴァッジョ展」が始まります。
ミケランジェロ・メリージ・カラヴァッジョ(1571~1610年)は、西洋美術史上もっとも偉大な芸術家のひとりで、17世紀初頭にローマでバロック絵画を誕生させ、光と闇の演出による劇的な宗教画を数多く描いています。
以前このブログでは、2012年9月25日の記事でカラヴァッジョの生涯をたどりながらその作品をご紹介していますが、日本でカラヴァッジョの作品をまとめて見られる機会は2001年(東京都庭園美術館ほか)以来とのこと。
1999年、イタリア・ミラノのブレラ美術館で『エマオの晩餐』を鑑賞した時、感銘を受けたにも関わらずその後カラヴァッジョのことを忘れかけていた私は上記の美術展をスルー。カラヴァッジョの魅力を再発見したきっかけは、「ルーヴルはやまわり」の著者、有地京子先生の名画解説セミナーでした。
(映画「カラヴァッジョ~天才画家の光と闇」のチラシ)
没後400年記念に公開された映画「カラヴァッジョ~天才画家の光と闇」を見て、彼の人生と作品に興味を持った私ですが、カラヴァッジョ作品の最大集積地であるローマをはじめとしたイタリアを再訪する機会もないままだったので、今回の展覧会は本当に待ちわびていた企画展です。
ここでは、『エマオの晩餐』など本展覧会で見られる作品をいくつかご紹介します。
★『エマオの晩餐』★
(1606年:ミラノ、ブレラ美術館蔵)
(展覧会チラシより)
私が初めて出逢ったカラヴァッジョ作品『エマオの晩餐』は、2人の弟子が食卓を共にした男が、復活したキリストであることを知って驚く場面を描いています。
色調を抑えながらも光と闇との対比がドラマチックな効果をあげている晩年の傑作。
本作は、死刑宣告を受けたカラヴァッジョの逃亡生活の中で制作されており、ロンドン、ナショナル・ギャラリーが所蔵する1601年に描かれた同主題の作品と比べると、」画面から受ける印象が全く異なります。
人物の動きを抑え、画面に射し込む強い光はなく闇が広がっており、カラヴァッジョの晩年洋式の始まりが見られる作品です。
★『トカゲに噛まれる少年』★
(1596~1597年頃:フィレンツェ、ロベルト・ロンギ美術史財団蔵)
(Photo by「日経おとなのOFF」)
バラの花に隠れていたトカゲに噛まれて驚く少年という初期の風俗画。
バラは愛を表すため、恋の道には痛みが伴うという教訓を表したものといわれます。
カラヴァッジョはローマ時代の初期、単独の少年と果物などの静物が組み合わされた作品を数多く描いており、 同主題の作品はロンドン、ナショナル・ギャラリーも所蔵しています。
フランドル派の影響により静物画や風俗画がさかんになりつつあったミラノで修行したカラヴァッジョは静物の描写が得意でしたが、人物表現の伝統が根強いローマでは、少年と組み合わせる必要があったと考えられます。
★『女占い師』★
(1598~1599年頃:ローマ、カピトリーノ絵画館蔵)
(展覧会チラシより)
ロマの女占い師に手相を見てもらう若者という構図ですが、女は世間知らずの若者の指からそっと指輪を抜き取ってしまいます。
同じ頃に描かれたとみられるルーヴル美術館所蔵の同主題の作品は、ほぼ同じ構図ながらモデルなった女も若者も異なっています。ルーヴル作品の若者のモデルは、カラヴァッジョの舎弟であった画家のミンニーティ。
参考★『女占い師』★
(1595~1598年頃:ルーヴル美術館蔵)
(Photo by「もっと知りたいカラバッジョ」)
ルーヴル美術館はカラヴァッジョの作品を3点所蔵していますが、上記有地京子先生の「ルーヴルはやまわり」には、『女占い師』と『聖母の死』の詳しい解説があります。
★『ナルキッソス』★
(1599年頃:ロマ、バルベリーニ宮国立古典美術館蔵)
(Photo by 「時空旅人」)
水面に映った自分の姿に惚れ込んで溺れてしまった美少年ナルキッソス。
わが身に恋する美少年とニンフのかなわぬ恋物語〝ナルシスとエコー”は、ローマ時代のオウィディウス『変身物語』による叙情的な物語です。
写真ではわかりにくいのですが、暗闇の中に浮かび上がるナルキッソスと水面に映った彼の姿が互いを見つめあう構図をじっくり見るのが楽しみです。
★『エッケ・ホモ』★
(1605年頃:ジェノヴァ、ストラーダ・ヌォヴォ美術館蔵)
(展覧会チラシより)
ローマ総督ピラトに捕らわれ、鞭打たれて傷ついたキリストが群衆の前に引き出された場面ですが、本展覧会では、依頼主が他の画家にも描かせた同じ主題の作品と並べて展示されるとのこと。
★『洗礼者ヨハネ』★
(1605~1606年:ローマ、コルシーニ宮国立古典美術館蔵)
(Photo by「日経おとなのOFF」)
洗礼者ヨハネはカラヴァッジョが数多く描いた聖人ですが、本作では若々しい裸身が月光に照らされて浮かび上がる構図となっています。
2010年に東京都美術館で開催された「ボルゲーゼ美術館展」には、カラヴァッジョ最晩年に制作された同主題の作品が来日しています。
参考 絵はがき★『洗礼者ヨハネ』★
(1610年頃:ローマ、ボルゲーゼ美術館蔵)
憂いに満ち、放心したようにこちらを見るヨハネが持つ杖は十字架状のものではなく、洗礼用の椀もラクダの毛皮もありません。また、背後にいるのもヨハネの子羊ではなく角の生えた牡羊として描かれています。
洗礼者が救世主を待っていることを示すようでもあり、殺人罪の恩赦を待つカラヴァッジョの姿に重なるという見方もできます。
生涯にわたって死を描き続けたカラヴァッジョは斬首を主題にした作品が多いのですが、ペルセウスに斬首されて楯に封じ込まれた魔女メドゥーサの断末魔の叫びが凍りついた作品。今回は、ウフィッツィの作品と同じころ制作された個人蔵の作品が展示されるようです。
参考★『メドゥーサ』★
(1597~1598年:フィレンツェ、ウフィッツィ美術館蔵)
(Photo by「もっと知りたいカラバッジョ」)
本展覧会は、カラヴァッジョの世界を体感できるように、五感、風俗、光、斬首などのテーマごとに構成されカラヴァッジョの作品をカラヴァッジェスキ(継承者たち)の作品とともに紹介されるとのこと。
誰のどんな作品に出会えるのか開催が待ち遠しいですね。
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