東山魁夷の名画『緑響く』の世界へ・・・信州「御射鹿池」とモーツァルトの旋律 [私的美術紀行]
先月末、信州とご縁が深い東山魁夷画伯の名画『緑響く』のモデルといわれる八ヶ岳中央高原・御射鹿池に行く機会に恵まれました。
数年前、某社の液晶TVのCMにも登場した“白馬が駆ける緑の森が水面に映りこむ幻想的な風景”です。
★『緑響く』(1982年)★
長野県信濃美術館 東山魁夷館所蔵
(NIKKEI POCKET GALALYより)
ある時、一頭の馬が、私の風景の中に、ためらいながら、小さく姿をみせた。
すると、その時描いた18点の風景(その中には習作もあるが)の全てに、白い小さな馬が現れたのである。
白い馬は、風景の中を、自由に歩き、佇み、緩やかに走る。
しかし、いつも、ひそやかに遠くの方に見える場合が多く、決して、全面に大きく現れることはない。
御射鹿池は、農業用のため池として作られ、その幻想的な風景から、農水省により「ため池100選」にも選ばれています。
酸性が強く、生き物が棲息することができない池の畔には数本の白樺があり、この日も観光客がこのあたりで記念写真を撮っていました。
湖底に、酸性を好むチャツボミゴケが繁茂しているために、青緑に光る湖面に木々が美しく映るそうですが、東山画伯は御射鹿池をモチーフにした作品を他にも描いています。
絵はがき★『緑映』★(1991年:セリグラフ)
そして、『緑響く』という作品にはモーツァルトにまつわるエピソードがあり、東山魁夷の美術館で売られている『東山魁夷が愛した モーツァルトの第二楽章』というCDのライナーノーツには次のような記述があります。
「白い馬はピアノの旋律で、木々の繁る背景はオーケストラです。」
by 東山魁夷
ある時、私はその年に描く作品の構想を考えていると、ふと、モーツァルトのピアノ協奏曲イ長調(K.488)の第2楽章の旋律が浮かんできた。
嬰ヘ短調の6拍子で書かれたこの楽章は、穏やかで控え目がちな主題が、まずピアノの独奏で奏でられる。
(中略)
やがて、主題がピアノ独奏で変奏されると、フルートやファゴットが加わり優しい語らいを交わす。
(中略)
すると、思いがけなく一頭の白い馬が、針葉樹の繁り合う青緑色の湖畔の風景の中に小さく姿を現して、右から左へとその画面を横切って姿を消した。
私はこの幻想から一枚の構図を得て≪緑響く≫と題する作品が生まれた。
私は、数年前、市川市東山魁夷記念館で、壁面に飾られた東山魁夷画伯の作品に囲まれて、モーツァルトのピアノ協奏曲23番第二楽章の演奏を聴くというなんとも贅沢な体験をしたことがあります。
信州原村のリングリンクホールのコンサートでお馴染みの音楽家・森ミドリさんが、作品展示室内でチェレスタを演奏されるという市民向けのコンサートイベントに参加させていただくことができたのです。
森ミドリさんのモーツァルトのピアノ協奏曲演奏は、日本の横笛演奏者の松尾翠さんとの合奏でしたが、和楽器がモーツァルトの楽曲の哀愁に満ちた世界を見事に表現できることに驚きました。
森ミドリさんは、今年の7月、リングリンクホール15周年記念演奏会で松尾翠さんとのコラボ演奏でモーツァルトのピアノ協奏曲を聴かせてくださったのですが、そのリングリンクホールが閉鎖されるかもしれないというので、旧友たちと原村にでかけたおかげで『緑響く』のモデルとなった御射鹿池に行くことができたというのは不思議な巡り合わせです。
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