南スペイン、スローな田舎暮らしへの郷愁・・・・イシイタカシさんが描くスペイン情景画の世界 [私的美術紀行]
南スペイン・グラナダに近い小さな村、フェレイローラ村と南房総・館山にアトリエを構え画業を続けているイシイ・タカシさんの個展に2年ぶりにお邪魔しました。
2010年の個展訪問時は、私にとって2回目となるスペイン旅行のすぐ後だったので、自分が実際に見てきた景観に近い作品をついつい探してしまいました。
しかし、スペイン在住生活30年以上、“魅惑的な舞台を自らの情念で解釈し、絵にしている。生活の気配が景観を情景に変える”というイシイさんの情景画は、ガイドブックやテレビ番組に溢れている有名観光地の風景映像とは違い、長きに渡りその土地で暮らし、光と土と共に生き、時には厳しい自然と対峙している人たちの気配が色濃く感じられます。
絵はがき★「ヒラソル」★
画像ではわかりにくいのだが、農作業を終え、ロバと共に帰宅した主人を出迎える愛犬と妻とおぼしき女性が小さく描かれている。
夏のアンダルシアの心象風景といえば、地平線まで続くひまわり畑・・・・
なのだが、私のスペイン訪問はいずれも9月初旬だったので、残念ながらこういう風景に出会ったことがない。
スペインにあって日本ではあまりみられないもののひとつ「地平線」といえば、ラマンチャ地方の風車がある風景も「地平線」がよく合う。
2010年、ツアーで訪れたラマンチャ地方、小高い丘の上に並ぶ観光用に整備された風車のある風景は美しかったが村人の生活の気配は全く感じられなかった。
絵はがき★ラマンチャの風車★
夕暮れ時、ロバを曳いて家路に就く農夫の後ろ姿が風車のある風景に溶け込んでいる。
ラマンチャでロバを連れた男といえば、「ドン・キホーテ」を思い起こすが、スペインでは今でも人気があるらしく騎士の格好をしたドンキホーテの像などをよく見かけた。
絵はがき★気ままに★
斜面に貼り付くように集落がある。
屋上テラスからの眺めは最高。昼間からワインを飲みたい気分になる・・・・
手すりが必要な急な階段状の坂道の街に住むお年寄りは買い物もままならないが、古くから住む村人たちは助け合いの暮らしで乗り切っているのだろう。
2010年のスペイン旅行で一番楽しみだったのは、岩山の斜面にはり付くように白壁の家々が立ち並ぶアンダルシア地方の白い村。
私たちは、スペインで最も美しいといわれる「フリヒリアナ」を訪れ、短い時間だが自分たちの足で街を散策した。
アルミハラ山麓になだれ込むように白い家並みが連なり、イスラム時代から続く古い街並みを保存しているが、狭い石畳の坂道や階段の多い街ではロバが今でも荷物運びの現役とのこと。
小石をきれいに埋め込んで模様を描いた路に、村人の路に対するこだわりが感じられる。
坂道がいくつか交差する場所で顔見知りと出会えば、立ち話が弾む。
絵はがき★音色★
テラスで真っ白に洗い上げた洗濯物を干す女性。
どこからともなく聞こえてくるギターの調べ。。。
真っ白な家々の窓辺を飾る色とりどりの鉢植えも美しかったが、老人がつま弾くギターの音色が観光客の気分を盛り上げてくれた。
絵はがき★オレンジの広場★
イシイさんの新作版画は、セビリアの旧市街サンタクルスのなかにある小さな広場。
このあたりは街路樹などすべてがオレンジの樹、初夏は甘い花の香りに包まれ、秋からはオレンジの果実が街を賑やかに彩る。
(個展の案内状より)
セビリアといえば、初めてのスペイン訪問時、黄金が輝くセビリア大聖堂を見学して、コロンブスの偉業に感動したあとで立ち寄ったサンタクルスのバルで食べた生ハムがとても美味しかった。
バルの天井から生ハムがいくつもぶら下がっている光景は、今でこそ珍しくないが、当時スペインの生ハムは日本に輸入できなかったので、旅の思い出と生ハムの味が強く結びついている。
そういえば生ハムを食べたバルの前にもオレンジの樹が植えられていた。
'98年のスペイン旅行は、今考えると我が家の歴史の中で一番幸せな旅だったように思える。
ヨーロッパ先進国の中では、地方色豊かな料理や食べ物が美味しくて安いといわれたスペインも、EUに加盟後のバブルが弾けた昨今の厳しい経済情勢で'98年のスペイン旅行と2010年の旅では、近代化によって失われたものが色々あるように感じました。
イシイさんが描くスペインの田舎暮らしの情景画の中には、いつまでも続いて欲しいと願いながらも今は見ることのできない風景がベースになっている作品もあるのではないかとふと思いました。
郷愁のスペイン田舎暮らしを、楽しいイラストとエッセイで楽しめるイシイさんの旧著からは、のどかな時代の普段着のスペインが見えてきます。
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