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演じられた自画像・・・・ドイツ・ルネサンスの巨匠、デューラーは本当にイケメン? [私的美術紀行]

15-16世紀に活躍したドイツ・ルネサンス最大の巨匠デューラー1471-1528)は、芸術家としての自意識を込めて自画像を「発明」した画家として知られています。

デューラー以前も自画像を描くことはありましたが、もっぱら画中の物語場面の一登場人物として隅の方に描かれているのであって独立した自画像ではなかったのです。

デッサンや板絵による多くの自画像を数多く残したデューラーは、当時としてはとても進んだ感覚の持ち主だったようですが、ルーヴル美術館のリシュリー翼には22歳の画家が修行の旅の途中に描いたとてもハンサムな自画像が展示されています。


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デューラー「自画像、もしくはアザミを持った自画像」1493年★(ルーヴル美術館蔵)
Photo by 講談社「週間 世界の美術館」


デューラーの油彩単独自画像としては最初のもので、手に持ったアザミは、図像的には「キリストの受難」の暗示。絵の上部にドイツ語で書かれた「わがことは天の定めのままに」という銘文とあわせると、この作品は“キリストに倣って自分も苦難の人生を生きる”という敬虔な信仰心の表れと解釈できるが、自らも神のような創造者であるという芸術家の自負心をあらわしているともとれる。

また、ドイツ語のアザミという単語“manstrau”には「夫の忠誠」という意味があるため、故郷・ニュルンベルクにいる婚約者への贈り物として描かれたのではないかという説もある。


さて、デューラーがその5年後、イタリア遍歴修行からの帰国後に描いた2作目の油彩自画像はマドリードのプラド美術館にあります。私も昨年見てきましたが、こちらもなかなかの男前で、美術館の公式ガイドパンフにも写真入りで紹介されている名画です。

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デューラー「自画像」1498★(プラド美術館蔵)
Photo by 講談社「週間 世界の美術館」


自らの社会的地位を誇示するかのように最新流行のヴェネツィアモードの帽子と優美な晴れ着姿の3/4正面像からは、職人ではなく芸術家として成功しつつある26歳の画家のオーラが感じられる。

この図では見えないが、右端の銘文には画家のイニシャルの図案文字も入っており、鹿皮の手袋をはめた両手を組み合わせたポーズからも画家としての自負心がうかがえる。


中世ドイツの画家は職人だったため、署名などは意味を持ちませんでしたが、ルネサンス期には人文主義の影響から銅版画や木版画にサイン代わりの図案文字をいれるようになりました。
版画作品の制作点数も多く著作権の重要性にめざめたデューラーは、意匠を凝らした図案文字を考案し、そのデザインも他の画家に影響を与えたといわれています。


極めつけは、デューラーの自画像の中で最も有名な作品であるアルテ・ピナコテーク(ミュンヘン)所蔵の「1500年の自画像」。豊かなウエーブヘアを垂らし豪華な毛皮の衣装に身を包み真正面から私たちと向き合うデューラーはキリスト像とダブってみえるような気がします。(毛皮の衣装はキリストとは全く異なりますが)

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デューラー「1500年の自画像」1500年★
(ミュンヘン、アルテ・ピナコテーク)蔵)
Photo by 講談社「週間 世界の美術館」


真正面向きの自画像は、人物像としては異例の形式
従来は聖画像と墓碑にしか認められていなかった形式の自画像は、”神のごとき画家“であるとの信念の表れとみることができる。
顔の右、金文字の銘文には、人文主義者が好んで用いた書体によるラテン語で「アルブレヒト・デューラー ノリクム(南ドイツ地方)の人 不朽の色彩で自らを描く 28歳」と記されている。
強調された手は、右利きの画家の”創造の右手“。


ルネサンスという人間中心主義の洗礼を受け、自分は“神のごとき画家である”との信念を抱いて創作に生涯を捧げたデューラーは、芸術によって真理に近づき対象の本質を見極めようとするうちに、「(神とは違い)人間は無から創造することはできない」ことに気づかされたといいます。

キリストの没年齢とされた30歳を目前に、”神のごとき“自分の正面像を描いたデューラーですが、
鏡を見ながら描いたと思われるデューラーの“ハンサムな自画像“は、そもそも画家の実像を正確に描写しているのでしょうか?


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★デューラー「自画像」1484年★(ウイーン、アルベルティーナ美術館蔵)
Photo 
by小学館「西洋美術館」


父のもとで金細工の修行をしていたデューラーは、途中で画家修行に切り替えますが13歳の時に描いた最初の自画像です。もしこれが実像に近いとすると、約10年でこの少年が一連の肖像画のようなハンサムな青年になるの?という素朴な疑問が・・・・

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★シュヴァルツ「デューラー像のメダル1520年★
Photo 
by小学館「西洋美術館」


こちらは、デューラー自身のデッサンに基づき1520年に制作されたメダルとしてのデューラー像です。
この横顔のデューラーは極端な鷲鼻で、先の3点のハンサムな自画像から受ける容貌のイメージとはかなりギャップがあります。
自分は”こうありたい”、”こう見られたい”という自分の願望や理想が表現されたのが「自画像」ということなのでしょうか。

但し、古代ギリシャでは、鷲鼻は男性らしい「完璧な鼻」とみなされていたので、むしろ賞賛の意味を込めた極端な鷲鼻と解釈することもできます。



ところで、デューラーより後の時代、17世紀に活躍したレンブラント1606-1669)は生涯自画像を描き続け、油彩だけでも60点以上制作しています。

内面の表現にこだわり“自画像の画家”ともいわれるレンブラントは、ブロマイド的肖像画を欲しがるファンの要望に応えて、自画像を量産。“コスプレ趣味”かと思えるほど多種多様な姿や表情の自分を描いているので、こちらも演じられた自画像といえましょう。

破産して63歳で困窮の内に死んだといわれていますが、実はそれほど落ちぶれていたわけではないという説もあります。


<レンブラント27歳頃から55歳までの自画像>
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レンブラント「縁なし帽を被り、金の鎖を付けた自画像」1633年★
(絵はがき・ルーヴル美術館展)


2009年に来日した作品に近づいて鑑賞したら、どっしりした質感のビロードの衣装から金鎖が浮き上がっているように見えた。


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レンブラント「若き頃の自画像」1633-34年★
(ウフィツィ美術館蔵)
Photo by 講談社「週間世界の美術館」


鋼鉄製の首当ては、独立したばかりの連邦共和国市民兵の象徴。
深い陰影の中に、名声を得た自信と希望が浮かんでいる。


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レンブラント「大自画像」1652年★(ウイーン美術史美術館蔵)
Photo by 講談社「週間世界の美術館」


”虚飾を捨てた初老の男”?
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歳の「大自画像」婚約不履行で訴えられ、経済的にも苦境にあった孤独な中年男の内面が浮き彫りに。

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レンブラント「聖パウロに扮した自画像」1661年★(アムステルダム国立美術館蔵)
Photo by 講談社「週間世界の美術館」


浪費家だったレンブラントが経済的に破綻し、豪邸も手放したのちの55歳の自画像。
自らを殉教者聖パウロに見立て、小アジアのキリスト教国へ宛てた手紙を持つという設定の作品は、内向的で憂鬱な、悟りと諦めともとれる表情に描かれている。



ところで生涯自画像を描き続けたレンブラントと違い、中年以降の自画像が殆ど出回っていないデューラーは、30代以降の老いていく自分を自画像として全く描いていないのでしょうか?



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「ルーヴルはやまわり」には、今回ご紹介したデューラーやレンブラントの自画像などの詳しい解説もあります。


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