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”ゴッホが夢みた日本の風景”を錦糸町駅で発見 [私的美術紀行]

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(絵はがき ゴッホ「種まく人」;1888年)

印象派の画家やゴッホらが日本の浮世絵の影響を受けた作品を描いていることはよく知られています。
先日まで国立新美術館で開催されていた「没後120年 ゴッホ展」に出品されていた「種まく人」は、ミレーの代表作「種をまく人」の人物像模写作品のひとつです。

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(ゴッホ「花咲く梅の木」;1887
Photo by「小学館「週刊美術館 ゴッホ」)

「種まく人」は、ゴッホが生涯を通じて描き続けたテーマですが、アルルに移り住んだ1888年に描かれた本作の手前に木がある構図は、油彩で模写した歌川広重の浮世絵にヒントを得たことがよくわかります。

ゴッホは『東海道五十三次』や『名所江戸百景』など広重の作品を数多く所有していましたが、パリで印象派の色遣いと日本の浮世絵の構図を学んだゴッホは、 “ミレーの「種をまく人」を明るい色彩で描き直す”という自らの目標をアルルで制作したこの絵で見事に達成したといわれています。

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(「亀戸梅屋敷」ゴッホのトレース;1887
Photo by「2005年ゴッホ展 カタログ」

ゴッホには「花咲く梅の木」など、浮世絵をわざわざ油彩で模写した作品がありますが、広重の『名所江戸百景 亀戸梅屋敷』は、半透明の紙にトレースした素描も残されています。

ゴッホは原画の輪郭線を極めて正確に写し取り、格子を書き加えて番号を振ってから拡大した下絵をカンヴァスに写すというプロセスをふんで油彩を制作したそうです。
この素描を見ると、ゴッホが浮世絵の特徴である「強調された輪郭線」を自らの作品の主要な構成要素のひとつとしてとりいれるのに、トレースという手法が果たした役割は大きい”といわれています。(
2005年開催のゴッホ展カタログ解説による)

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(歌川広重「名所江戸百景・亀戸梅屋敷」;1857
Photo by 望月義也コレクション「広重名所江戸百景」


「花咲く梅の木」の元絵となった広重の『名所江戸百景 亀戸梅屋敷』は、『臥龍梅』と呼ばれる特異な枝ぶりの梅の木が印象的
江戸時代、市中はもとより近郷近在より見物客が来たという梅屋敷は明治
43年の大洪水で全滅してしまったそうですが、娘の受験祈願でお世話になった亀戸天神にも梅の木があります。親近感のあるテーマではありますが、浮世絵にはあまり知識がない私でもどこかで見た構図の様な気がしていました。

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(半蔵門線・錦糸町駅プラットホーム壁画)

ゴッホつながりで、深川江戸資料館で開催されていた「歌川広重『名所江戸百景』展」に行く途中、地下鉄半蔵門線・錦糸町駅のホームでその絵を発見しました。
都心に出かけるとき時々乗り換え利用する錦糸町駅ですが、その絵は私が下車する側の壁に掲出されていたため今まで気づかなかったと思われます。(反対側の『両国の花火』は認知していました)

モネのジベルニーの旧宅にも浮世絵コレクションが飾ってありましたが、ゴッホは浮世絵をコレクションしていただけでなく、画商をしていた弟のテオと共に、作品の委託販売までしたことがあるとか。
さらにゴッホは、年下の画家仲間エミール・ベルナールたちにも浮世絵研究をすすめ、浮世絵と自分や画家仲間の作品を並べた小さな展覧会を2度も開催しているそうです。

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広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立ゴッホの模写
Photo by 小学館「週刊美術館 ゴッホ」)

ゴッホは『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』という作品も油彩で模写しています。
こちらもテーマとなっている新大橋は、亀戸にもほど近く何度も車で通っている場所。
ゴッホはこの模写にも額縁のように漢字を配置したエキゾチックな装飾を用いていますが、それにして“吉原・・・・”とかの文言は一体どこから引用してきたのでしょう。

作品の解説に、“雨天の風景そのものが、それまでのヨーロッパ絵画では珍しい題材だった。その雨を繊細な線描のみで表現した広重の技法は、ゴッホだけでなく当時のヨーロッパの画家たちに大きな驚きを与えた”という記述がありました。私にとってはそのこと自体が驚きです。

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ところで、こちらの浮世絵も、錦糸町駅の改札口前に掲出されていることに今更ながら気づきました。
亀戸梅屋敷』を中央に『両国花火』と『大はしあたけの夕立』の3点セットで、マップ入りの解説ボードもありました。

地下鉄に乗るときは改札口を足早に通り過ぎてエスカレーターに乗ってしまうので周囲に目が届かなかったようです。地下鉄駅構内をデザインした方の粋な計らいに感謝です。

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半蔵門線・錦糸町駅をご利用の際には、ちょっと足を止めて見てくださいね。


広重名所江戸百景―望月義也コレクション

広重名所江戸百景―望月義也コレクション

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 合同出版
  • 発売日: 2010/08
  • メディア: 単行本
深川江戸資料館で鑑賞した著者のコレクションが収録されているこの本には英語の解説もついているので外国人と一緒のお出かけのお供にも・・・


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