ドレスデンでラファエロの天使に出会った・・・・ザクセンの栄華が甦る古都の旅① [私的美術紀行]
絵はがき ★ラファエロの天使★
世界中でおなじみの愛らしい天使たち・・・
原画は、ドレスデン絵画館にあります
先日ドイツで開催された女子サッカーW杯でなでしこジャパンが優勝しましたが、選手たちにとってドイツはとても居心地の良い国だったそうです。私も実際にドイツに行ったことがあるのでなでしこたちが日々リラックスして過ごしていたことが実感としてよくわかりますが、今回なでしこが世界一になったことで個人的にはドイツへの好感度がワンラックアップです。
今季は、なでしこジャパンの3選手がドイツでプレーすることになっていますが、ドイツブンデスリーガには男子の日本代表もキャプテン・長谷部誠をはじめ日本人選手が数多く在籍しており、日本人選手を応援する周遊旅行を計画すればドイツ1周の旅ができそうな勢いです。
残念ながらこれからご案内するドレスデンを含む旧東ドイツ圏内にはサッカーの強豪クラブがないなど1990年のドイツ統一後も残る東西格差はサッカー界にも存在しているようです。
私自身2回目のドイツ訪問となった2008年に初めてエルベ川沿いに広がる世界遺産の美しい古都を訪ね、ザクセン選帝公の華やかな宮廷文化の名残に接してそのスケールの大きさに驚くと共に、ドレスデンが第二次大戦の大空襲による破壊から見事に甦った歴史を目の当たりに見て大変感動しました。
08年のドイツ旅行では、ドレスデンとベルリンで計4点のフェルメールを鑑賞することが旅の目的のひとつだったことは当時のブログでもご紹介しています。
★ドレスデン絵画館の正面★
ラファエロの「システィーナのマドンナ」のバナーが見える
”エルベのフィレンツェ”と称されるドレスデンの12の美術館・博物館からなる「ドレスデン美術館」には、歴代のザクセン公国の君主が集めた名画、至宝の数々が揃っており、ヨーロッパ絵画は古典絵画館(アルテマイスター)と近代絵画館の2カ所に収蔵されています。ドイツ、イタリアルネサンスの作品を中心にフランドル・オランダなどヨーロッパ各国の絵画を幅広く所蔵しており、16世紀のザクセン公の絵画コレクションを源とする古い歴史を持つ絵画館です。
★ツヴィンガー宮殿の中庭★
アウグスト強王によって建てられた宮殿は、18世紀の
ザクセン・バロック建築の最高傑作。
精巧に彫られた壁の彫刻も、オリジナルとほぼ同様に復元されている
★王冠の門・クローネントーアの華麗な装飾屋根★
王の尊厳性を象徴する王冠はポーランドの鷲4尾で支えられ
ており、アウグストがポーランド王でもあったことを示している。
1855年にツヴィンガー宮殿に設けられたアルテマイスターには14~18世紀のヨーロッパ美術の傑作が集まっており、ドイツロマン主義の祖フリードリヒの作品など19世紀から20世紀までの近代絵画は「近代絵画館」にあります。
絵はがき ”絵画館の至宝”
★ラファエロ『システィーナのマドンナ』★
(サンシストの聖母):1512~1513年頃
この絵は教皇ユリウス2世が注文した、北イタリア・ピアチェンツアのサンシスト教会の祭壇画だった。
長い交渉の結果、1754年にザクセンが巨額の費用で入手。
文豪ゲーテも絶賛した傑作だが、第二次大戦後モスクワに運ばれ、1956年にドレスデンに無事返還された。
白い雲のような背景のなかに無数の天使が描かれていることがわかる。
師のペルジーノの『聖母被昇天』の”雲に乗るマリア”から着想を得たとされる図像と天使の群像は、少し前にラファエロがローマで制作した大型祭壇画『フォリーニョの聖母』にも見られる。
参考図★ラファエロ『フォリーニョの聖母』★
1511~1512年、ヴァチカン美術館蔵:
Photo by美術出版社「聖母マリアの美術」
★ジョルジョーネ『眠れるヴィーナス』★
1518~10年頃:
Photo by講談社「週刊 世界の美術館」
ドレスデン絵画館で最も有名な作品?
ジョルジョーネの死後「眠れるヴィーナス」は弟弟子のティツィアーノが完成させている。
※ティツィアーノが後年描いた『ウルビノのヴィーナス』(1538年)はウフィッツィ美術館にある。
★フェルメール『手紙を読む女』★
1659年頃
”ドレスデン絵画館必見ベスト3”といえる本作品も、購入当時はレンブラント派の作品と見られていた。(この絵画館には多数のレンブラントの作品コレクションがある)
右端の大きなカーテンは後から描き足したといわれるが、当初は壁にキューピッドが描かれていたのを絵の具で塗りつぶしたらしい。
★フェルメール『取り持ち女』★
1656年
フェルメールの風俗画の出発点とされる本作品も購入時はレンブラント派の作品とされていた。娼家における人物像をクローズアップしているのだが当時はこのような娼家の絵が人気だったという。
左端の人物がフェルメール自身とされているが、赤い服を着た娼家の主人が画家自身という説もあるようだ。
絵はがき
★クラナハ(父)『ザクセンのハインリヒ敬虔公夫妻』★
1514年:
ルーカス・クラナハは、ルターの友人で宗教改革に共鳴し、ルターの様々な肖像画を描いたり新訳聖書の出版などをしているが、ザクセンの宮廷画家にもなっていた。クラナハの作品には当時の貴族たちの最新流行ファッションを知る楽しみもある。
★クラナハ『楽園』★
クラナハ晩年の傑作は、旧約聖書のアダムとイブの「楽園追放」の物語から5つのストーリーを同じ画面に描いている。
クラナハは私の好きな画家のひとりで、ドレスデンでは他にも「カタリナ祭壇画」などの傑作を鑑賞したが、このあとベルリンでも「若返りの泉」(青春の泉)という今日にも通じる普遍的なテーマの作品に出会うことができた。
さて、17世紀オランダを代表する画家レンブラントは、1669年の死後、他のヨーロッパ諸国ではあまり評価されていなかったのだが、ザクセン選定公アウグスト1世は”ドレスデンでレンブラントの再評価が始まった”といわれるほど、レンブラントの作品に傾倒し、17点の作品を購入している。
★レンブラント『サスキアの肖像』★
レンブラントは、サスキアとの結婚を機に上流階級の仲間入りをしたが、この作品はサスキアとの婚約の年に描かれたもの。
★レンブラント『放蕩息子の酒宴』★
1635年頃:
17世紀の市民社会の成熟により、新約聖書をテーマとするという口実で娼家の一場面が描かれるようになった。
放蕩息子はレンブラント自身、女は妻のサスキアがモデルとされており、楽しげな表情がふたりの幸福な時代を表している。
★レンブラント『鷲にさらわれるガニュメデス』★
ギリシャ神話のガニュメデスをレンブラントは泣き叫ぶ赤ん坊として描いているのが印象的な作品。
★ティツィアーノ『白い服を着けた夫人の肖像』★
ティツィアーノがヴェネツィア派の巨匠となってから彼自身の娘をモデルに描いた作品。
(以上4点はPhoto by「DVD世界の美術館」)
★ルーベンス『水浴のバテシバ』★
1635年頃:
Photo by 講談社「週刊 世界の美術館」
17世紀フランドル・オランダ絵画コレクションも充実しており、バロックの巨匠ルーベンスの作品も多数展示してあった。
古典絵画館には、ベラスケスやスルバランなどスペイン絵画の部屋やフランス絵画の部屋もありヨーロッパ美術コレクションの幅広さを実感しました。ここでは紹介していませんが、イタリア絵画では、マニエリスム様式の代表的画家・パルミジャニーノの「薔薇の聖母」や、コレッジオの「羊飼いの礼拝(聖夜)」など美術史上欠かせない画家たちの作品がたくさん並んでいました。
第二次世界大戦により、モスクワに持ち出された作品などは返還されたものの、収蔵作品の約200点が焼失し、約500点が行方不明になったというドレスデン絵画館ですが、見応えのある作品をたっぷり鑑賞することができました。
しかし、絵画館だけでなくザクセンの至宝鑑賞の旅はまだまだ続きます。
あんぱんち~さん、お立ち寄りありがとうございます。
by ジョージ (2011-08-04 17:27)