『皇妃エリザベート』、あの有名な肖像画はいったい何枚あるのか? [私的美術紀行]
(絵はがき:皇妃エリザベート)
(絵はがき:皇帝夫妻)
中世から20世紀初頭まで、645年間もヨーロッパに君臨したハプスブルク家。
先月のクロアチア・スロヴェニア旅行もまた、ユリアンアルプスのブレッド湖という意外な場所でハプスブルク家の栄華の名残りを実感する旅となりました。
このブログでも何回かご紹介していますが、私はハプスブルク家の代表的美女といわれる『皇妃エリザベート(愛称シシィ)』の大ファンです。
といいつつ、2007年の中欧旅行時はまだそれほどよく知らなかったこともあり、ウイーンの王宮で公開されている皇帝夫妻の居室や「シシィミュージアム」よりもシェーンブルン動物園のパンダを優先させてしまいました。シシィに興味を持つようになって資料を色々調べるうちに、どうしても見学してみたいと思うようになったのですが、そんなに簡単に行ける場所ではありません。
(「ハプスブルク展」公式ムック本)
別冊家庭画報 家庭画報特別編集 ~「THEハプスブルク展」 公式MOOK~ハプスブルク家「美の遺産」を旅する
- 作者: 写真=南川三治郎
- 出版社/メーカー: 世界文化社
- 発売日: 2009/09/01
- メディア: ムック
(皇妃エリザベートの肖像画:
上記公式ムック本より)
東京で「ハプスブルク展」が開催され、シシィの肖像画が来日するらしいと知り、せめて有名なあの肖像画の実物が見られるだけでも良いかなと思いました。11月に展覧会の解説セミナーがあるので、美術館には受講後に行くつもりでとりあえず公式ムック本だけ入手しておきました。
旅行直前になり、クロアチアからの帰国便のウイーン乗り継ぎ時間が長く、短時間の滞在ではあってもウイーン市内に行くことは可能だとわかり、思いがけず「シシィミュージアム」行きが実現しました。とはいえ、市内に到着してから空港行きのシャトルバスに乗るまでの時間は70分、王宮までの往復徒歩時間を除けば本当に短時間の“弾丸ツアー”です。
(アウグスティーナ教会:この教会では
マリー・アントワネットも代理人と婚約指輪の交換をした)
(王宮のミヒャエル門)
まず、フランツとエリザベートの結婚式が執り行われた「アウグスティーナ教会」を外から見て、王宮のミヒャエル門に急ぎ、「シシィミュージアム」に入場。
時間がないので、フォルクス庭園にある「シシィ像」はあきらめましたが、いざとなると王宮は広くて、団体客の隙間を走り抜けるようにしての文字通り駆け足見学でした。
(絵はがき:皇妃エリザベートの肖像画:
自慢の長い髪の手入れは特に入念だった)
「シシィミュージアム」は、皇帝夫妻の居室と、アレクサンドル皇帝の居室と一緒に公開されていますが、チケットは「宮廷銀器コレクション」との共通券になっており、無料のイヤホンガイド付きです。王宮内の22室が展示公開されていますが、室内の写真撮影は禁止です。
展示風景などは書籍や絵はがきでご紹介します。
(上記書籍によるシシィミュージアムの展示風景)
「シシィミュージアム」は、1898年に暗殺されたエリザベートのデスマスクの展示から始まりますが、映像や音楽を駆使し、シシィ神話にまつわる映画などの紹介、少女時代から宮廷生活までの様子など多岐にわたる展示品があり、どれも興味深いのにゆっくり見る時間がなかったのが残念です。その中に、暗殺者が実際に使用した凶器の研ぎすまされたヤスリがあったことにはちょっと驚きました。
(絵はがき:皇帝夫妻の肖像画が飾られた皇帝の執務室)
皇帝フランツ・ヨーゼフ夫妻の居室部分は、13室ありますが、その中の皇帝の執務室は、ウイーンに居ることが少なかったエリザベートの肖像画を見ながら、ワーカーホリックとも思える皇帝が日夜仕事に励んでいた部屋です。
現在、エリザベートと皇帝の肖像画は2枚並んで展示されています。
(公式ムック本より)
1865年にヴィンターハルターが描いた「皇妃エリザベートの肖像」は、既に写真の時代になっていて数多くの写真が残されているにもかかわらず、だれもが思い浮かべる有名な肖像画。
王冠すら戴かずに、流行のドレスに身を包み美しい肩をあらわにした斬新な肖像画を一目見た皇帝は、「本当の皇妃の姿をとらえたポートレイトはこれが初めてだ」と絶賛したと言われています。
今回の「ハプスブルク展」には、この肖像画が来日するというので、1枚欠けたらどんな展示になっているのかと思いながら部屋に入りましたが、何事もなかったかのようにその絵は皇帝の肖像画と並んでいます。
一瞬、“同じ絵が2枚あったのか?”と思いましたが、考え込んでいる時間はないので先を急ぎ、皇妃の居間兼寝室や化粧室などでエリザベートの“美へのこだわり”の展示品を見て、最後に売店で絵はがきなどを購入し、ダッシュで空港行きのシャトルバス乗り場に向かいました。
さて、先日、「ハプスブルク展」の解説セミナーを受講して、肖像画の謎がさらに深まったので、公式ムック本を熟読し、手持ちの資料などを色々調べました。
結論から言うと、皇帝がヴィンターハルターに制作を発注したのは3点、そのうちの2点は私的な性格の肖像画とのこと。だから、日本に1枚貸しても何事もなかったわけです。さすがハプスブルク家の皇帝ともなるとオトナ買いなのですね。
では、この2点の違いは何か?
入手できた画像で見る限り、背景の色味やドレスの陰影、生花に微妙な違いがありそうですが、写真や印刷の影響かもしれません。しかし、絵のサイズと額縁のデザインが2種類あることがわかりました。
(2000年当時の展示風景:講談社「週刊世界の美術館」H12.8.8号より)
来日したのは、ウイーン家具博物館蔵の絵画で、216×300センチ、額縁は長方形。
王宮の居室に展示されているのは、160×250センチ、額縁は上方に装飾のあるデザインです。
3週間ぶりに肖像画の謎が解けて、スッキリしました。
(シシィミュージアムのチケット)
ところで、「シシィミュージアム」のチケットなどに印刷されている反対向きの肖像画はデジタル処理?
ジョージさん!!ありがとうございます!!
私は六本木でハプスブルグ展が始まる3日前にウィーンにいました。
例の肖像画はもう東京にあるだろうとちょっとガッカリしていたのですが、普通にシシィミュージアムにかかっている肖像画を観てあれ?あれ?模写?贋作?などと混乱しました。
もしかして1〜2日あれば東京に送って展示作業ができるのかな(まさかね・・・)などと考え、謎に思ってました。
六本木でハプスブルグ展を観るときに学芸員の方に、あの絵は何枚あるのか、もしくはシシィミュージアムにかかているのは模写なのか聞いてみようと思い、
今日出かけて行って聞いてみましたが、全く要領を得ない回答をされてもやもやしてました。
それは「ウィーンの美術史美術館に模写が1枚あるのは把握しているが、他にこの肖像画があるかどうかはわかりかねる」というものでした。
まあ学芸員の方ではなく、事前にちょっと展示物についてレクチャーを受けただけのようで、鉛筆で3行ほど肖像画についてのメモがされた自分のノートを見ながら回答してくれました。
ジョージさんのおかげで本当にスッキリしました。
この2ヶ月ほどの謎が解け、今夜はよく眠れそうです。
ありがとうございました!!
by ゆっこ (2009-11-22 01:53)
ゆっこさん、ご訪問ありがとうございます。
私と同じ疑問を持った方に情報が伝わったこととてもうれしいです。
私もずっともやもやしていたので謎がとけて安心しました。
絵画の鑑賞では時々、こういうミステリーに出会えるのも私にとっては楽しみです。
同じ画家に同じテーマの絵を複数描いてもらうといっても、ポーズとか服装とかに違いがあれば混乱しませんが、このエリザベートの肖像画は予想外でした。
おそらくウイーン美術史美術館にある模写というのは、133×255センチサイズの作品として、別の書籍で紹介されていたものかと思われます。
美術史美術館に行ったときに見た記憶がないのですが、多分、通常は非公開になっているのではないでしょうか。
by ジョージ (2009-11-22 18:08)
四国中央市の井上です。パリの家の近くの骨董やさんで偶然王冠の付いた額に惹かれ買い求めました。ポートレートの主はオーストリアの王妃エリザベートシシイと言われたのと王冠の付いた額にビックリ、エリザベートにびっくり二度びっくりしました。黒い喪服を着た中年の黒一色の絵です。
ムッシュは大学で古美術を専攻されたそうですので、私のブログhttp://galeriey2.wordpress.com/2014/04/27/%E5%BD%BC%E5%A5%B3%E3%81%AF%EF%BC%9F-%E3%82%B7%E3%82%B7%E3%82%A3-sissi-%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF/をご覧になってみていただければと思います。
by kawanoegy (2014-05-22 08:53)