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森ミドリさんと作家・太田治子さんの「文学コンサート」から『絵の中の人生』へ [原村の小さなホール]

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信州・原村で小林節子さんが主宰する小さなホールで、天来の妙音といわれるチェレスタの演奏を毎年聴かせてくださる音楽家・森ミドリさんが、今年はとても素敵なコンサートを開いてくださいました。

節子さんとも
20年来の知己である作家・太田治子さんをお迎えして、“チェレスタの演奏とお話、そして朗読”というかなり欲ばりな企画です。


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当日は、あいにく朝から雨模様の天候でしたが、コンサートの時間帯は雨もあがり、緑に囲まれた小さなホールには遠来のお客様を含めて50名近い方がお集まりくださいました。

ミドリさんのチェレスタ演奏は、雨にちなんだ曲のメドレーから始まり、チェレスタという楽器にまつわるお話をはさみながら会場のお客様のリクエスト曲などを演奏。

チャイコフスキーのバレエ組曲「くるみ割り人形」の「金平糖の精の踊り」は、チェレスタのソロ演奏パートがあることで知られていますが、元の曲名は「金平糖」ではなく「ドラジェ」だったことをミドリさんのお話で初めて知りました。
以前から、ロシアにも金平糖があるのか?と疑問に思っていたのですが、この曲が日本に紹介された当時、「ドラジェ」というアーモンドの砂糖菓子は日本では知られていなかったためのようです。

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チェレスタ演奏の後、シニア層を中心としたお客様がお待ちかねだったゲストの作家・太田治子さんが登場。

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治子さんは、太宰治と、“『斜陽』のモデル”といわれた太田静子さんの間に生まれたお嬢さんですが、母・静子さんが太宰に渡した『斜陽日記』をもとに、太宰治の『斜陽』という小説が世に出たということなどを語られました。

治子さんは太宰治生誕100年に、お二人の娘として、一度は向き合わなければいけなかったというテーマを渾身のノンフィクションとして一冊の本にまとめています
その著書明るい方へと、母上の著書斜陽日記を会場で販売していたので、私も求めさせていただきました。

父上の斜陽は手元にあるので、今回の2冊とともに読んで『太宰ワールド』を体感してみようと思います。


明るい方へ  父・太宰治と母・太田静子 (朝日文庫)

明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子 (朝日文庫)

  • 作者: 太田治子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/06/07
  • メディア: 文庫

斜陽日記 (朝日文庫)

斜陽日記 (朝日文庫)

  • 作者: 太田静子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/06/07
  • メディア: 文庫


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ミドリさんと治子さんのトークの後、太田治子さんは、ご自分の小説集「恋する手」の中から「僕は小鳥になる」という作品を味わい深く朗読されました


恋する手

恋する手

  • 作者: 太田 治子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/10/13
  • メディア: 単行本



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会場の皆さんもミドリさんとご一緒にウェルナーの「野薔薇」を合唱して盛りだくさんのコンサートは終了しました。

ホールの裏方の一人として東京から駆けつけた私も、一期一会の贅沢なひとときを楽しみ、終演後のホールは出演者も交えた打ちあげの食事会場に早変わり。

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裏方としてリングリンク・ホールに駆けつけた人たち心づくしの手料理がテーブル一杯に並びました。
私と一緒に東京から馳せ参じた潤子さんは、治子さんのために青森名物の「(うにの)いちご煮」で炊き込みご飯を作ってくれました。


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小説やエッセイをその作家自身が朗読し、それにふさわしい音楽を合わせるという趣向の会は、平成22222日の「ね!こんさあと」で体験済みですが、作家ご自身の著作の朗読というのは、プロのアナウンサーや俳優さんたちの朗読とはひと味違う何かがあるように思います。


さて、太田治子さんはNHKの「日曜美術館」の初代アシスタントをなさったように、美術にも非常に造形が深く、美術エッセイなどの著作も多数あります。

最近上梓された著作は、治子さんが敬愛してやまない明治の洋画家・浅井忠の評伝「夢さめみれば」。

日本の洋画界にあまり詳しくない私も、この本の表紙にもなっている「グレーの洗濯場」(1901年)は、先日ブリヂストン美術館で鑑賞しているのですが、浅井忠の名前を知らなかったため、この作品と画家の名前が一致していませんでした。

モネの「睡蓮」と並んで展示されていた川で洗濯する女性がいる風景画は、安政生まれの日本人が描いた作品とは想像もできない西洋画です。

夢さめみれば 日本近代洋画の父・浅井 忠

夢さめみれば 日本近代洋画の父・浅井 忠

  • 作者: 太田治子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/01/20
  • メディア: 単行本

翌朝、治子さんと少しお話できた折にご紹介いただいた美術エッセイ「絵の中の人生」に、“この絵のことをもっと知りたい”、“絵を描いた画家の人生にふれたい”と常々思っている私はすっかりはまってしまいました。

絵の中の人生 (新潮選書)

絵の中の人生 (新潮選書)

  • 作者: 太田 治子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 単行本

このブログで私が以前ご紹介したいくつかの作品に対する治子さん想いも絵の中の人生」に書き綴られていました。

※絵のタイトルをクリックすると、該当するブログ記事をご覧いただけます。

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絵はがき★ルノワール「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」★
1876年:ブリヂストン美術館蔵

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★「手紙を読む青衣の女」★
1662-65年頃:アムステルダム国立美術館蔵)

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絵はがき★「裸のマハ」★
1797-1800年:プラド美術館蔵)


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お父さんはつらいよ・・・・『幼児キリストの養父・ヨセフ』は白髪頭の老人? [私的美術紀行]

今度の日曜日は「父の日」、史上最強のマドンナともいうべき存在の聖母マリアと比べて『キリストの養父・ヨセフ』は存在感が薄いように思い、聖母マリアの夫・ヨセフが主役の名画を探してみました。

ダヴィデの末裔にあたるナザレの大工だったヨセフが、まだ10代の乙女マリアと婚約・結婚した時、彼は既にかなりの年齢だったようでいわゆる“年の差婚”でした。

当時ヨセフは男やもめで先妻との間に子どもがいたという説もありますが、婚約者が自分のあずかり知らぬところで身重となったのはショックだったに違いありません。しかし、ヨセフはマリアの夫として身重のマリアをベツレヘムに連れて行き、キリスト降誕の時は産婆を捜し回ったり、のちにヘロデ王の蛮行から逃れるためエジプトへの逃避の際は高齢をおして母子を守るなどとても献身的なお父さんです。

それにしても、絵画作品にみるヨセフ像は、高齢を強調するように頭髪もまばらな白髪頭の老人として描かれたものが多いように思います。


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絵はがき★ラファエロカニジャーニの聖家族」★
1505-06年頃:アルテ・ピナコテーク蔵)

聖母子の画家・ラファエロがフィレンツェで活動をはじめた頃、この街の名家カニジャーニ家の注文によって描いた宗教画。

聖母子に加え、聖ヨセフ、聖ヨハネ、ヨハネの母エリザベツの
5人が安定した三角形の構図に収まっている。
上部の天使たちは
18世紀に一度塗りつぶされたが1983年に修復された。

本作品のヨセフは、杖にすがってやっと立っているかなり高齢の老人に見えますが、ラファエロはこの数年前には若々しい姿のヨセフを描いています。ヨセフ像のあまりにも激しい変わりようは依頼主の要望に応える為だったのでしょうか。



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ラファエロマリアの結婚」★
1504年:ブレラ美術館蔵)
(Photo by「週刊 美術館」)


ラファエロは、本作品では
14歳のマリアにふさわしい若者としてヨセフを表現しているが、この作品を描いた21歳の秋、ペルージャからフィレンツェに向かい、上述の別人のように年老いたヨセフ像を描いている。

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カラヴァッジョエジプト逃避途上の休息」★
1595年頃:ドーリア・パンフィーリ美術館蔵)
(Photo by「もっと知りたいカラヴァッジョ」)

長旅に疲れた様子の聖母子の傍らでヨセフが譜面を持ち、天使が聖家族のためにヴァイオリンを奏でる。

優雅な曲線の天使の後ろ姿は、カラヴァッジョがラファエロやマニエリスム絵画を研究した成果。
聖母子の背後の風景描写からはカラヴァッジョの後の作品にはない叙情性が感じられる。


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絵はがき★ムリーリョ小鳥のいる聖家族」★
(1650年:プラド美術館)

以前訪問したプラド美術館で、“小犬に自分の手の中にいる小鳥を見せて遊ぶ幼子キリストを優しく見守るマイホームパパという「聖家族」”を、見つけてちょっとびっくり。

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世紀半ばの対抗宗教改革の影響で17世紀に『ヨセフ崇拝』も高まり、図像でもヨセフのトレードマークのようだった白髪が黒くなり、若返ってイメージアップした潮流で描かれた作品と考えられる。

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グイード・レーニ聖ヨセフと幼児キリスト」★
1638-40年:個人蔵)
(Photo by「西洋絵画の主題物語 聖書編」)

まさにマリアをヨセフに置き換えた聖父子像だが、初孫を抱き上げて喜ぶおじいちゃんのようにも見える?

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ジョルジュ・ド・ラ・トゥール大工のヨセフ」★
1640年:ルーヴル美術館)
(Photo by 展覧会チラシ)

夜の仕事場で大工仕事に精を出すヨセフに、ローソクを持った幼いキリストが何か語りかけている。

当時の庶民の日常光景のように見えながら、ローソクの光に浮かび上がる父子の姿に深い精神性が込められた作品は、私のイチオシ「聖父子像」

明暗の強調はカラヴァッジョの影響で劇的だが、ラ・トゥールは形を単純化させ、デフォルメするセザンヌの先駆者ともいえる。

本作の詳しい解説については、このブログでも何度か紹介しています有地京子さんの「ルーヴルはやまわり」をぜひご覧ください。


ルーヴルはやまわり - 2時間で満喫できるルーヴルの名画

ルーヴルはやまわり - 2時間で満喫できるルーヴルの名画

  • 作者: 有地 京子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2011/11/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


さて、お父さんつながりで「
20世紀近代絵画の父」と称される画家セザンヌ父子についてのエピソードもちょっとだけご紹介。

詳しくは、拙ブログのこの記事をお読みいただければ幸いです)



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セザンヌ青い衣装のセザンヌ夫人」★
1888-89年:ヒューストン美術館蔵)
(Photo by 
2008年開催の展覧会のチラシ

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絵はがき★セザンヌ画家の父」★
1866年:ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵)


南仏エクス=アン=プロヴァンスの裕福な実業家の息子として生まれたセザンヌは、事業の後継者となることを望む父の反対を押し切って画家になりましたが、画家として成功するまでには長い年月を要しました。

父の仕送りが打ち切られることをおそれたセザンヌは、パリで知り合った内縁の妻と息子の存在を父にはひた隠しにし、オルタンス夫人を正式な妻として父に紹介出来るようになったとき息子は
14
歳になっていました。

忍耐強くポーズをとり続けるモデルとして画家を支えたオルタンス夫人でしたが、その数年後、父の死によりセザンヌが莫大な遺産を相続し、生活が安定したとき妻との間は完全に冷め切っていたとか。

画家のサイド・ストーリーや作品の背景など、名画の裏に隠されたエピソードを知ると名画鑑賞の楽しみが深まりますね。

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