2016年秋、東京でゴッホとゴーギャンの競演が楽しめる [私的美術紀行]
美術愛好家にとって、2016年の東京は近年まれに見るアタリ年でした。
個人的にこれまで手薄だったジャンルの作品を鑑賞する機会もあり、お伝えしたいことも多々ありましたが、諸般の事情でブログ更新が滞っておりました。
10月以降の美術展情報から私が特に興味のある展覧会について少しまとめてみました。
10月から上野では、日本でも絶大な人気を誇るゴッホとゴーギャンという二大巨匠の共演を堪能できる美術展が近接する2会場で開催されます。
一気にハシゴ鑑賞して、危ういまでの強烈な個性を放つ二人の世界に思い切り浸りきるか、余韻を愉しみながらゆっくり鑑賞するか?
<ゴッホとゴーギャン展>
2016.10.8~12.18
東京都美術館
ゴッホ★『ゴーギャンの椅子』★
1888年:ファン・ゴッホ美術館蔵
ゴーギャン★『タヒチの3人』★
1899年:スコットランド国立美術館蔵
(左上)ゴッホ★『自画像』★
1887年:クレラー=ミュラー美術館蔵
(右下)ゴッホ★『ジョゼフ・ルーランの肖像』★
1889年:クレラー=ミュラー美術館蔵
本展のチラシやチケットのメインビジュアルに使われているゴッホ作『ゴーギャンの椅子』(1888年)は、2010年秋の「ゴッホ展」にも出品されましたが、今回は、同じような椅子をモチーフにしたゴーギャンの作品も出品されています。
(2010年の「ゴッホ展」については、同年10月27日付の本ブログでご紹介しています)
南仏アルルで芸術家のユートピアをつくろうと夢見て同志を集めようとしていたゴッホですが、画商をしていた弟テオの働きかけでようやくゴーギャンが来ることになりました。何人もの友人から断られていたゴッホは大喜びでゴーギャンのために家具を買いそろえたり、ひまわりの絵を何枚も描いて部屋に飾って待ちわびていたといいます。
しかし、あまりにも個性の強かった二人の共同生活は二カ月で破たんし、ゴーギャンはアルルを去ってしまいます。
(参考作品)ゴッホ作★『ゴッホの椅子』★
(1888年:ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)
(Photo by「週刊 西洋絵画の巨匠」)
ゴッホが質素な生活の中で大切な友のために購入した高価な椅子をモチーフにした作品は、二人が対立しゴーギャンがアルルを去る少し前に描かれたようです。
ゴッホ自身が使っていたシンプルな椅子と比べると、ゴーギャンに対する気遣いがいじらしく感じられるほど贅沢な椅子ですね。
(右上)ゴーギャン★『自画像』★
1885年:キャンベル美術館蔵
ゴーギャンが画家となった初期のころの作品。
(右下)ゴーギャン★『肘掛椅子のひまわり』★
1901年:E.G.ピュールレ・コレクション財団蔵
タヒチに渡り画家として成功したゴーギャンも心の闇を抱え、自殺未遂事件などがありましたが、死の2年前、タヒチにはないひまわりの種を取り寄せて『肘掛け椅子のひまわり』を制作しています。
(参考作品)ゴーギャン★『椅子の上のひまわり』★
1901年:エルミタージュ美術館蔵
(Photo by「週刊 西洋絵画の巨匠」)
ゴッホのシンボルともいえるひまわりを、アルル時代にゴーギャンが使っていたものを思わせるような椅子に載せた作品は、亡き友へのオマージュとも考えられますね。
ゴーギャンは、ほぼ同じ構図の作品を数点描いています。
<デトロイト美術館展
~大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち~>
2016.9.7~2017.1.21
上野の森美術館
さて、アメリカ中西部にあるデトロイト美術館は、自動車産業の巨万の富を示すコレクションといわれています。幅広いジャンルの約6万点に及ぶコレクションより今回は印象派から20世紀初頭までのヨーロッパ近代絵画の「顔」ともいうべき名画が集結したとのこと。
ゴッホやマティスの作品をアメリカの公共美術館として初めて購入した美術館から、その作品が出品されているのが見どころのひとつです。
※本展は、自動車産業が盛んなデトロイト市と豊田市の姉妹都市締結55周年記念事業として、豊田市で2016年4月に開催され、大阪を経て東京で巡回開催されるものです。
ゴッホ★『自画像』(部分)★ 1887年
生涯に40点近い自画像を残しているゴッホがパリ時代に描いた作品。
明るい色彩や線状のタッチなどに印象派の影響が見られるが、全図では青いスモックの中央部に指で絵具を置いた跡が残る。
(上)モネ★『グラジオラス』★
1876年
(右下)ルノワール★『座る浴女』★ 1903-06年
ゴーギャン★『自画像』★ 1893年
上でご紹介している1885年に描かれた自画像↑と比べると、本作では風貌にかなりの変化が見られます
マティス★『窓』★1916年
マティスは「色彩の魔術師」と呼ばれることもあり、『赤の調和 赤い室内』に代表されるように原色のイメージがありますが、“アメリカが初めて見たマティス”となる本作は抑えた色使いで床と壁の境や奥行感があいまいで、平面性が強調されています。
セザンヌ★『サント=ヴィクトワール山』★ 1904-06年
“二十世紀絵画の父”セザンヌの精神的支えだった故郷の山を描いた晩年の作品のひとつ。
ピカソ★『読書する女性』★1938年
15点の日本初上陸作品の中でも本作は、1957年にフォード一族が購入後、2005年にデトロイト美術館に所蔵されるまで一般公開されていなかった必見の作品。
★★★「クラーナハ」と「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」
については、別記事でご紹介します★★★
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