東山魁夷画伯のまなざしで辿る『ドイツ・ロマンティック街道』追想 [私的美術紀行]
★『ローテンブルクの門』★
いかめしい石の門を潜り抜けると、
そこは隔絶された世界である。
この郷愁の町は、
私にとって、青春の日の象徴でもある。
by「東山魁夷小画集」
日本画家・東山魁夷が若い頃ドイツに留学し、第二の故郷と慕うほどドイツに思いを寄せ、何度となくドイツへ創作旅行に出かけ、ドイツの街々の風景画を数多く残していることを最近知りました。
明るい南欧と比べて地味な印象のあるドイツやオーストリアなど北方のヨーロッパに画伯が強く惹かれたことに興味を覚えて、東山画伯のドイツ・オーストリアの風景画を収録した画集を入手し、制作の背景などを綴った随筆などを読み始めましたが、画伯の「風景との対話」は、なかなか奥が深い世界です。
今回は、画伯が1969年に“36年ぶりとなるドイツ再遊の旅”の後に制作された作品と散文詩のような文章などを引用しながら、私が2008年に訪ねたドイツ・ロマンティック街道の小さな街々について、追想します。
★ローテンブルク旧市街・プレーンライン★
中世にタイムスリップしたような街並みが広がるロマンティック街道の街々。
なかでも堅牢な石壁に囲まれたローテンブルクの旧市街は、ロマンティック街道観光のハイライトです。
★鉄細工の看板★
★鉄細工の看板(パン屋)★
ドイツ・オーストリア方面でよく見かける透かし彫りの装飾が美しい鉄細工の看板は、識字率が低かった時代の名残というが、看板ウォッチングは飽きることがない。
東山画伯も、このような看板のスケッチを数多く残している。
★ローテンブルク市庁舎とマルクト広場★
11月下旬からマルクト広場周辺で開催されるクリスマスマーケットは観光客に大人気。
★マルクト広場の居酒屋★
古びた都門を潜り、石畳の道を私は歩いて行く。両側には傾斜の急な破風の家々が、どの窓にも溢れるように花を飾って建ち並んでいる。その窓の花は、私に“いらっしゃい!”と囁きかける。ところどころにガス燈の形をそのままに残した街燈、鉄細工の唐草模様をつけた趣のある看板。道は私を真中の広場へと導いてゆく。
広場のまわりには、古風な市庁舎、ホテル、教会の高い塔、中央には石の彫刻のついた泉、酒場の庭の菩提樹の木陰に並べられたテーブル・・・・・・。
by「東山魁夷小画集」
★『泉』★
いわゆるロマンティシェ街道の古都ローテンブルクを訪れた私は、若い時にスケッチした広場の泉を、以前と同じ構図で描いた。背後にある古い市庁舎は爆撃で破壊されたのを、以前の通りに再建して壁の古色までつけられている。私は、過ぎ去った長い年月を忘れる想いであった。
by「東山魁夷小画集」
★マルクト広場の中央にある「ゲオルクの泉」★
(画伯のスケッチと別の角度から撮影)
ローテンブルク旧市街観光の人気スポットのひとつ、街を守るため10世紀に築かれた石の壁(市壁)。
現存する壁の大部分は、12世紀に建てられたものとのことですが、上部の通路から街を一望することができます。
★『丘の上のローテンブルク』★
タウバー谷から、丘の上のローテンブルクを眺める。
城壁に囲まれた赤い屋根の家々、
いかめしい都門の塔、窓を指す教会の尖塔、
ここには中世そのままの景観を乱す何ものもない。
by「東山魁夷小画集」
画伯は、私とは反対に丘の麓から見上げた風景を描いていますが、先日見たTV番組で、丘の上のローテンブルクの映像を入手しました。
赤い屋根が見渡す限り連なる中世そのままの景観が今も保存されていることがよくわかります。
★市川市東山魁夷記念館★
東山魁夷画伯の風景画には西洋画的な感覚を感じますが、画伯はドイツ留学時代に、ドイツ、イタリア、フランスなどの美術館を巡り、数多の巨匠たちの作品をじかに鑑賞する機会に恵まれたとのこと。
東京美術学校では日本画専攻だった画伯が1933年(昭和8年)にドイツに留学したこと自体珍しいと思うのですが、留学中の美術館巡りが画伯の制作活動の方向性に大いに影響を与えたのでしょう。
昨年初めて訪問した、市川市にある東山魁夷記念館のアプローチには、ローテンブルクの都門のひとつに、ラテン語で刻まれていたという文言のレリーフがあります。
“歩みいる者に やすらぎを
去り行く人に しあわせを”
画伯の作品と初めて出会った夜、私はとても幸せな気分で家路につきました。
(画伯のまなざしで辿る旅は後編に続きます)
★tochi さん、kiyo さん、colletさん
ご訪問&niceありがとうございます。
by ジョージ (2013-01-17 18:29)