華麗なる侯爵家の宮殿サロンでバロック美術を鑑賞・・・・「リヒテンシュタイン」展 [私的美術紀行]
国立新美術館開館5周年記念展示ということで、メディアで取り上げられることも多い「ようこそ、わが宮殿へ リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」展に行って来ました。
(東京・六本木では2012.10.3~12.23 開催、その後高知、京都に巡回の予定)
◆リヒテンシュタイン宮殿 (夏の離宮)◆
(ウィーン郊外ロッサウ)
ルーベンス「デキウス・ムス」連作が飾られている展示室の様子
Photo by 朝日新聞
“優れた美術品収集こそ一族の名誉”との家訓のもと、ヨーロッパの名門貴族リヒテンシュタイン侯爵家が収集した美術品コレクションは、英国王室に次ぐ世界最大級の個人コレクションとのことですが、ウィーン郊外にあるリヒテンシュタイン宮殿で公開されているコレクションについては最近まで全く知りませんでした。
しかし、リヒテンシュタインという国の成り立ちや歴史、“ルーベンス、ヴァン・ダイク、ラファエロ・・・・侯爵家が500年間守り抜いた奇跡のコレクション”には戦火やヒットラーの暴挙から名画を守るために命がけの大移送作戦があったことなどをTV番組で知り俄然興味がわきました。
オーストリアがドイツに併合されたことにより公開が中止されていたコレクションの展示が再開されたのは2004年、海外での作品公開も1985年(~86年)のメトロポリタン美術館以来というのですから、日本人にとって殆どなじみがないのもよくわかります。
さて、今回の美術展は、コレクションが収蔵されるウィーン郊外ロッサウにある「夏の離宮」での展示様式をとりいれた「バロック・サロン」を設け、美術品を天井画や家具調度品とともに展示していることが目玉のひとつです。
それでは、展覧会の順路に沿って、私的な必見作品をご紹介しましょう。
華やかなバロック宮殿の雰囲気を体感できるよう絵画、彫刻、工芸品、家具やタピストリーがバロック様式の室内装飾と調和するように同一空間に並べられています。
この美術館では、これまでも、『ゴッホの黄色い部屋』や『セザンヌのアトリエ』の再現展示がありましたが、今回は、日本初となる“本物の天井画展示”に注目です。
◆エントランスに続く「バロック・サロン」◆
(展覧会チラシより)
☆1700年頃に制作された
イタリアの画家ベルッチによる4点の天井画☆
(↑チラシ上段中央、サロンのイメージは上段右)
損傷が進んだフレスコ画の天井画のかわりにはめ込まれていたのですが、当初のフレスコ画の修理が可能になったということで現在は取り外されていたもの。今回の展示室の天井は宮殿よりもかなり低いので、肉眼でも細部まで鑑賞することができます。
☆脚&装飾付き磁器「枝付き大燭台」☆
(↑チラシ下段右から二番目)
17世紀頃、オランダ経由でヨーロッパに流入した中国磁器にブロンズ製の豪華な枠飾りを施すことがしばしば行われたそうですが、中国や日本の磁器を愛好していたリヒテンシュタイン侯爵家の豪華な飾りでつながれた磁器の「枝付き大燭台」一対が展示されています。
☆「飾り枠付き鏡」☆
(↑チラシ中段)
彫刻を施した金属のフレーム付きの鏡は、ひび割れを補修しているようですが、17世紀頃の鏡はまだ稀少品だったのかもしれません。
☆「コンソール」☆
(↑チラシ下段左端)
様々な色彩の石を嵌め込んで絵を作る貴石象嵌細工のテーブルトップやバロック特有のダイナミックな意匠が凝らされたコンソール・テーブルの脚部もゴージャスですが、キャビネットや書き物机などの緻密な装飾などじっくり鑑賞したい家具調度品がたくさんありました。
☆17世紀末から18世紀初頭に制作された4点の高価なタピストリー☆
寒冷地では寒さ対策の効果としても壁に飾られる装飾品ですが、展示品はいずれも保存状態もよく、なかなか見応えがあります。
ほどよい混雑だった平日の午後、部屋いっぱいに展開される華麗なるバロック芸術の饗宴をゆっくり楽しむことができました。
今回の展示は、空間全体がひとつの芸術ということで、個々の作品にはキャプションをつけるかわりに、写真入り出品リストがサロン入口に用意されています。スマートな展示というだけでなく、人混みの中で小さな文字のキャプションを読みとる苦労がありませんし、高価な図録を購入しなくても解説資料が手元に残るのは特に年金世代には好評だと思います。
◆名画ギャラリー(ルネッサンス/イタリア・バロック)◆
★ルーカス・クラナハ(父)「聖エウスタキウス」★
(1515-20年;絵はがき)
工房として幅広いジャンルの作品を制作した「クラナハ・ブランド」は人気が高く、各地の美術館で作品に出会えるのが楽しみ。
★クエンティン・マセイス「徴税吏たち」(1501年以降)
Photo by 朝日新聞
代表作「両替商とその妻」(↓)に先だって制作された本作は、コインの細密描写から制作年が判明したという。
★参考図:マセイス「両替商とその妻」★
(1514年:ルーヴル美術館)
Photo by 「西洋絵画史 WHOS WHO」
ルーヴル美術館の必見名画のひとつとして有地京子さんの「ルーヴルはやまわり」でも取り上げられている作品。
◆ルーベンスルーム◆
所蔵作品30点余りという世界が羨むルーベンスコレクションの中から10点の油彩画が来日し、展覧会のもうひとつの目玉展示室になっています。
★ルーベンス「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」★
(1616年頃;絵はがき)
大工房で大作を大量に受注生産した北方バロックの雄・ルーベンス自身の筆による愛娘の肖像画は、37×27センチの小品ながら存在感の強い作品。
まっすぐにこちらをみつめるクララは、5歳の子どもらしい表情の中にも利発さが感じられるが、不幸にも12歳でその生涯を終えたという。
★ルーベンス「占いの結果を問うデキウス・ムス」★
(1616-17年;絵はがき)
~「デキウス・ムス」連作より
ひときわ豪華な額縁の本作は、古代ローマの物語を空前のスケールで描いた8点の連作の2点目。
連作からは「勝利と美徳」もあわせて展示されている。
★ルーベンス「果物籠を持つサテュロスと召使いの娘」★
(1615年頃;絵はがき
:ウィーン、シェーンボルン=ブーフハイムコレクション蔵)
神話を題材にした本作品の構成や果物籠の描写には、バロックの開祖・カラヴァッジョの影響が見て取れる。
★参考図:カラヴァッジョ「果物籠を持つ少年」★
(1594年頃: ローマ・ボルゲーゼ美術館)
Photo by 東京書籍「カラヴァッジョ」
◆クンストカンマー 美と技の部屋◆
金細工などで有名なアウクスブルクの工芸品が本展覧会でもいくつか展示されていましたが、牡鹿に乗るディアナをモチーフにした「ゼンマイ仕掛けの酒器」は、テーブル上を移動し、止まった位置に近い人がお酒を飲み干すゲーム感覚で使われていたとか。この部屋では、主家筋のプラハの宮廷工房から購入した「貴石象嵌のチェスト」など見事かつ珍しい工芸品が多数出展されています
★マティアス・ラウフミラー 象牙製「豪華なジョッキ」(1676年)
(↑バロックサロンのチラシ下段右端)
古代ローマの説話「サビニの女たちの掠奪」を丁寧かつ劇的に彫りだしているジョッキは、自分の城と交換してもいい、と絶賛した領主までいたというバロックの名品。
◆名画ギャラリー(17世紀フランドル/オランダ)◆
★ピーテル・ブリューゲル2世(ピーテル・ブリューゲルに倣う)
「ベツレヘムの人口調査」★
(1607年頃)
画面の下部、中央右よりにはロバに乗った青衣の聖母マリアが描かれている。
★アンソニーヴァン・ダイク「マリア・デ・タシスの肖像」★
(1629-30年頃;絵はがき)
ルーベンスの工房出身で肖像画の名手だったダイクがイギリス行く直前に制作。
上流階級の娘で19歳のマリアが作品の中で身につけているクロスのネックレスをイメージしたオリジナルグッズを展覧会特設ショップで販売。
(私はチケットとセットになったお得な前売り券でGET!)
★レンブラント「キューピッドとシャボン玉」★
(1634年;絵はがき)
◆名画ギャラリー(18世紀新古典主義/ビーダーマイヤー)◆
19世紀の中欧で展開された『ビーダーマイヤー様式』という言葉を耳にしたことはあっても、実際の作品をまとめて見る機会は日本では殆どなかったかと思われます。
★エリザベート・ヴィジェ=ルブラン
「虹の女神イリスとしてのカロリーネ・リヒテンシュタイン侯爵夫人
(旧姓マンデルシャイト女伯)」★
(1793年;絵はがき)
貴族の女性が裸足とは・・・・ということで物議を醸し、“彼女が脱いだ靴”を作品の下に置いて展示したとか。
★フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー
「幼き日のオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世、
おもちゃの兵隊を従えた歩兵としての肖像」
(1832年;絵はがき)
皇妃エリザベートの夫であった皇帝の幼き日のスナップ写真のような肖像画。
『私的イチオシ絵画』はこの作品。
最後の展示室にあった本作品の愛らしさにすっかりやられてしまいました・・・・
巨匠たちの大作や名画よりも私の琴線にふれた一枚でした。
★フリードリッヒ・フォン・アメリング
「マリー・フランツィスカ・リヒテンシュタイン侯女 2歳の肖像」
(1836年;絵はがき)
寝息が聞こえてきそうなリアルな描写。
侯爵家のご令嬢のやわらかそうな巻き毛と、色白でふっくらしたほっぺたについ手を伸ばしてしまいたくなる。
「リヒテンシュタイン」展には、誰もが知っている名画は展示されていませんが、ハプスブル帝国のルドルフ2世からも認められた審美眼で収集された良質のコレクションが西洋美術鑑賞初心者にもわかりやすく並べられています。
ネームバリューでは「メトロポリタン美術館展」などに負けますが、観賞後の満足度が高い美術展だと思います。
「バロック・サロン」を体感するためにもお早めに美術館まで足を運んでみることをオススメします。
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