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『あなたに見せたい絵があります』・・・・ブリヂストン美術館開館60周年記念 [私的美術紀行]

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今年開館60年を迎えたブリヂストン美術館で開催中の特別展「あなたに見せたい絵があります」を見てきました。


開館当初の石橋正二郎コレクションから始まり60年間にわたって継続してきた石橋財団コレクションの収集活動の成果を発表するという特別展は、「自画像」、「肖像画」、「レジャー」、「物語」、「山」、「海」など11のテーマで構成されていました。

ふだん東京では見られない石橋美術館(久留米市)所蔵品とともに常設展示とは異なる文脈で展示された作品たちを、ブリヂストン美術館の学芸員の方のレクチャー付きガイドで鑑賞するという機会に恵まれ贅沢なひとときを過ごすことができました。


100点の特別展出品絵画の中から特に私の印象に残った作品をいくつかご紹介したいと思います。

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セザンヌ帽子を被った自画像
1890-94年頃)

セザンヌが描いた自画像30点のうちのひとつ。
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代前半に描かれた本作品はセザンヌの造形における実験のあとを色濃く残した作品。


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マネ自画像」(1878-79年)

マネが生涯に2点しか制作しなかった自画像のうちの1点。
もうひとつの作品は数年前のオークションで
30億円で落札されたとか。


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ルノワールすわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢
1876年)

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歳の少女がリラックスした表情でおしゃまなポーズをとりながら、ほんの一瞬だけ見せた可愛らしい笑顔を切り取ったこの肖像画はいわばルノワールの出世作。


ルノワールは、ゾラやモーパッサンなど当時の人気作家の小説を手がける出版業者、ジョルジュ・シャルパンティエの長女ジョルジェットを描いたこの肖像画が依頼主から気に入られたことでサロンで成功することができました。

実際のジョルジェットの写真よりも可愛らしいともいわれるこの肖像画を気に入ったシャルパンティエは妻など家族の肖像画を計5点も依頼し、夫人が自宅で主催するサロンに招き友人・知人に紹介したそうです。

この2年後に描かれたシャルパンティエ夫人と子供たちの肖像画は、以前ニューヨークのメトロポリタン美術館で見ましたが、当時のブルジョワ階級の暮らしぶりがわかるだけでなく、超高級ブランドの新流行のドレスの魅力も伝わるファッション画にもなっているのが見どころです。


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藤島武二黒扇」(1908-09年)

1908
年、パリからイタリアに移った藤島武二が留学中に描いた気品ある女性像は、師の画風を受け継ぎながらも、流麗、闊達な筆遣いは藤島自身の資質にもよっていると評されている。

画家の滞欧期を代表するこの作品を画家自身とても気に入っていて、長らく手元に置いてあったという。


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藤島武二天平の面影
1902年:石橋美術館蔵)

重要文化財に指定されている本作品は藤島武二が1905年の渡欧前に描かれたもの。
藤島武二は洋画を描くようになる前は日本画を学んでいたそうだが、素人目には西洋で流行した“ジャポニズム”のような雰囲気を感じる。


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ピカソ腕を組んですわるサルタンバンク
1923年)

ピカソは旅芸人や曲芸団を題材にした作品を好んで描いているが、確かなデッサンで古代彫刻のようにがっしりした体つきに描かれている。


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青木繁わだつみのいろこの宮
1907年:石橋美術館蔵)

“山で狩りをする暮らしをしていた山幸彦は、日頃海で漁をしている兄の道具を借りて釣りに行ったところ釣り針をなくしてしまった。兄がどうしてもその釣り針を返せというので途方に暮れていた弟は、海の神に導かれて海の彼方へ。そこで出逢ったトヨタマヒメに一目惚れして結婚した”という古事記の物語


28歳で夭折した伝説の天才画家・青木繁(1882-1911)は、留学経験はありませんがイギリスのロセッティ(ラファエル前派)などが神話や物語主題の作品を扱ったことを知り、日本やアジアの神話を主題にした作品を描いています。

石橋美術館の所蔵品には、石橋財団コレクションの柱となっている青木繁の著名な作品「海の幸」や「海景(布良の海)」などもありますが、久留米出身の洋画家、坂本繁二郎が小学校の図画代用教員時代に石橋正二郎氏を教えていた縁で、坂本と同郷の友人で既に亡くなっていた青木繁の作品を集めるようになったそうです。

ブリヂストン美術館では、没後
100年にあたる2011年に青木繁の大回顧展を開催しましたが、日本の画家についてあまり知識のない私は全然気づきませんでした。普段目にすることが出来ないこれらの作品を、今回の特別展で間近に見られたことは私にとって非常にラッキーだったといえます。


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坂本繁二郎放牧三馬
1932年:石橋美術館蔵)

印象派のような明るい光と風が感じられる作品の主題は、坂本が好んでスケッチしたという阿蘇の放牧馬。


進学をあきらめて代用教員になったものの、友人である青木繁に刺激されて上京し、絵を学んで洋画家となった坂本繁二郎(1882-1969)は、1921年渡仏。
フランスで明るく鮮やかな色彩の風景画に磨きをかけましたが、
1924年、郷里の久留米に戻ると以後は東京に戻ることなく終生九州で制作を続けたといいます。

石橋美術館は、坂本繁二郎の作品を多く所蔵していますが、石橋文化センターの園内には坂本が実際に使っていたアトリエが八女市から移築されています。


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ゴッホモンマルトルの風車」(1886年)

当時パリの若者たちの人気スポットで、ルノワールの著名作品の舞台にもなっている「ムーラン・ドゥ・ラ・ギャレット」を描いたもの。
しかしゴッホがパリに出て間もない時期に描かれた本作品の色彩は暗く、人物もいないので物寂しい風景画にも見える。とはいえ、空、風車、地面の描き方を変えた筆遣いはオランダ時代から進化。


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モネ黄昏、ヴェネツィア」(1908年)

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歳のモネは、この年の春体調を崩し、目の状態も悪化したが、9月末から12月半ばまで妻のアリスと一緒にヴェネツィアを初めて訪れ本作を制作した。
静養が当初の目的だったが、この町の独特な光にすっかり魅了されたモネは、ホテルに長期滞在して約
3カ月間制作に没頭したという。
翌年、モネはヴェネツィア再訪を計画するものの健康がすぐれず断念した。


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セザンヌサント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール
1904-06年頃)

故郷エクスのこの山がある風景をこよなく愛した画家が、最晩年に描いた作品のひとつ。

ブリヂストン美術館島田館長によると、
“前景の木の枝が一番遠くの山の稜線と呼応。青と緑の色の変化だけで描いている。
緑と青の中に黄土色という補色の建物を入れて色だけで画面を構成した作品は、ピカソやマチスの新しい絵画に繋がるもの” (
BSジャパン「欧州美の浪漫紀行3」より)


印象派や19世紀のフランス絵画などを日本の近代洋画と一緒に鑑賞できるブリヂストン美術館は、「世の人の幸福のために」をモットーとして美術館を開設した石橋正二郎氏の熱い思いが感じらるコレクションでした。

今回の特別展では、美術館の新所蔵作品として2点が展示されていましたが、その1点は、印象派のパトロンとしても著名なカイユボットの作品でした。


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カイユボットピアノを弾く若い男
1876年)新所蔵作品


(作品の画像はすべて絵はがきより)


東京駅からほど近い交通至便な場所にありながら、他の美術館よりも割安な入場料で素晴らしい作品を鑑賞できるブリヂストン美術館は私のお気に入りスポットになりそうです。


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